虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

五州戦線 その14



「着いた!」

 戦争を眼下に見下ろしてそう叫ぶ。
 東五州と北五州が争うその場所では、無数の死と血潮が散っていた。

「『SEBAS』、『宣教師』は?」

《現在地は──旦那様の位置より900mほど北の場所です》

「となると、あそこら辺か? ……うーん、通常の視覚だと捉えられないな。とりあえずその場所まで、ルート案内をしてくれ」

《畏まりました》

 双眼鏡代わりのサングラスに表示された場所まで、原付を飛ばして一気に向かう。
 そこには何者かが立っており、崖の上から戦場の様子を窺っていた。

「──突然申し訳ありません。もしかして、『宣教師』様でしょうか?」

「……違うって言っても、ダメみたいだね。そう、僕が『宣教師』だよ」

 ノイズが混じった、男とも女とも取れるような声がそう答える。
 ここは謎のキャラ、みたいな立ち位置を確立したいんだろうが……甘い。

「これはたびたび申し訳ありません、あなたのような麗しい女性に上からこのような振る舞いなど……すぐに降りますね」

「……どうして、女性だと?」

「すべての魔道具を無効化する力がある、とでも言っておきましょう。あなたがもう一つの大陸と接点を持っている、その証明にもなりました」

「ははっ、こりゃあビックリ。まさかこんなにすぐバレちゃうなんて。君で何人目だったかな? えっと……二十人目?」

 意外と多いな。
 けどまあ、相手が『超越者』ともなれば暴く力もそれなりなのかもしれない。

 確実に一人、そういったことを見抜きそうなヤツに心当たりがあるし。

「もしかして君……お仲間かな?」

「そうかもしれません。私は『生者』、と名乗っていますが……存じておりましたか?」

「もちろんだよ。君ほど僕たちの中でも特異な『超越者』は初めてだからね。星渡りの民にして、真の不死身。いやー、僕の権能と交換してもらいたいほどだよ」

「……『宣教師』様の権能と、ですか?」

 たとえ『生者』の権能をこっちのヤツらが使えるようになっても、全然運用できないんだろうけど……まあ、それを説明してやる筋合いはこれっぽっちもない。

「そう、僕の権能。まあ、詳しくは言えないけど──この戦争は僕の起こしたことでもあるんだ!」

「こと……でも?」

「あっ、そこに気づいてくれたんだね。みんな戦争とかそういう部分を気にして、そこは触れないで逆上するんだよ……まったく、ひどいよね?」

「私も初めはそう思っていました……しかしいろいろと不可解な点が多かったので」

 俺だけだと、『宣教師』が予想した通りの反応になっていただろう。
 だけど俺には『SEBAS』が居る……だからこそ、知ることができたわけだな。


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