虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

姉妹談(01)



「ただいまー!」

 少女──テーリアは帰宅の途に着く。
 ただしそれは正面からではなく、家族の私室の窓からではあるが。

「テーリア……こんな夜中に街へ出てはダメですよ」

「ごめんなさい、お姉さま。だけど、どうしても行っておきたかったから」

「……『生者』様でしたか。まさか、この時期にこの地へ現れるとは思ってもいませんでしたが。テーリア、これもあなたが引き起こしたことなの?」

「いやいや、さすがにぼくにそんな力は無いよ。『超越者』じゃないんだから……」

 テーリアの姉──セーリアはほんの少しだけ訝しむ瞳を向け、ため息を吐く。
 自分よりも何十倍も優れた妹は、いつも不思議な縁を結んでくる。

「けど、『生者』のタコ焼き? というのはおいしかったんだからいいじゃん。まさかあのオクトパスを、あんな風に料理できるなんて……さすが星渡りの民だよね」

「思えば、突如消えたオクトパスもそれが原因だったのかもしれないわね」

 数ヶ月前に観測され、そしてそれ以降いっさい確認されていなかった多様な種のオクトパスたち。

 同じくして、オクトパスを材料として用いる『タコ焼き』という料理。

「魔物は食べることに忌避感がある人も、ここまで形が変わっていると誰も気にしなくなるのもいいよね。魔物肉を焼いたのとかを見たことがあるけど、これはそれと違って丁寧な処理がされているし」

「……まだあったの? ロイスもロイスで持ち帰ってきたし、さすがに飽きてしまうというか……」

「ふっふっふ。お姉さま、お姉さまが食べたのはまだまだほんの一握り。そして一箱だけ入っていたこれなら、きっと気に入ってもらえるよ」

 受け取った際に使っていた魔道具……ではなく、自前の魔法を発動して空間の裂け目を生みだすテーリア。

 そこから取りだすのは──なんの変哲もない、通常の物と見た目をしたタコ焼きだ。
 そしてそれを一つ棒に刺すと、セーリアの口の中へ抛り込む。

「んぐっ」

「どう、おいしい?」

「……おいしいわ。このモチモチとした感触は、いったい何なの?」

「もぐもぐ……お姉さまの言う通り。モチっていう、倭国で取れるコメを加工した物みたいだよ。『生者』って、そっちにも繋がりがあるんだね」

 食べたモノからそれを理解するテーリア。
 口の中の物をすべて嚥下したあと、セーリアはそんな妹に問う。

「結局、『生者』をどう思ったの?」

「うーん、この世界をどうこうしたいという意志は無いみたいだね。ただ、家族が居るみたいだからそこだけは絶対に手を付けちゃいけないと思うよ。自制ができている分、そうなくなったときが危ない」

「この国の絡繰り仕掛けの龍も居ます。止めようにも、力を持たないものではあっさりと洗脳されてしまうでしょうね」

「……まっ、今は様子見が一番だよ。あとでいちおう分かったことは教えるから、それでどうにかしてよ、お姉ちゃん」

 そうテーリア──この国の第二王女である『テーリア・シャス・ドゥーハスト』は、その先の未来に期待しながら伝えるのだった。


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