虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

魔術の可能性 前篇



 なぜアリバイを作ったのか、その答えはまだ分かっていない。
 だが『SEBAS』から、お疲れ様ですと言われたからにはもういいのだろう。

 ……こういうの、創作物だと裏で壮絶な闘いが繰り広げられているんだよな。

 しかしまあ、俺の周囲……正確には俺個人の手が届く範囲ではそんな過激な展開にはならないだろう。

 そういうのは、身内が起こすイベントだ。

「──とまあ、そんなこんなで時間を潰していたわけだが……何かあったのか?」

「いや、何もなかったさ。それよりも、最近できたというフルーツのタレとやらを使ってくれないだろうか?」

「そういうのは俺にじゃなくて、店主に言ってやらないと……レッツゴー」

 サインを受けて、新作のタレの実験台のために肉を焼き始める屋台の店主。
 漬けられたタレが火で炙られ、香ばしい匂いが辺りに漂っていく。

 しかし、それは俺たちだけに伝わる香り。
 煙は周囲に散らばる途中で何かに遮られ、上へ昇っていく。

「空気は通すのに匂いは通さないのか……便利な結界だな」

「そうだろう。隔てるのが結界、だが何を断つのかを詳細にしたかった。あれこれ魔術を試していたら、このような術式ができた」

「……天才め」

「天才ではない。代々の『騎士王』が繋ぎ続けた才能の発露だ」

 万能の権能たる『騎士王』。
 物語の英雄、偶像の王──現実においてそう語られる騎士たちの王は、時を経るたびにその力を受け継いでいった。

 その能力の一つ、完全継承。
 次代の『騎士王』は歴代の『騎士王』が保有したすべてのスキルを使用可能になるという、いかにもチートな能力だ。

 申し訳程度の制限なのか、継承されてもレベルがリセットされている。

 しかし、本人の成長速度が異常なうえ、レベルの無いスキルは結局性能がそのまま……ザラすぎる制限だ。

「そういえば、魔術か……なあ、それって俺にも使えるのかな?」

「…………いや、無理だろう。『生者』はどうやら、素養を第二の権能にすべて注ぎ込んでいるようだ。生と死の理に加え、物作りの才まで得ようとした対価ではないか?」

「……マジかぁ。せっかくの魔術を自分で捨ててたってことかよ」

 とまあ、適当に本心を曝け出して答えを返したが──少し別のことを考えていた。

 だいぶ前……それもEHOを始めた頃のことだが、俺はその物作りの才──:DIY:を欲しがり、実際にそれを手に入れる。

 そして言われた──その対価は一部の能力値の成長が止まることと、スキルを自力で習得することが不可能ということだ。

 ──そこに、魔法や魔術が使えないという話は含まれていなかった。


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