虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

大森林 その16



「──奪え、“侵略者”」

 俺の支配下に納まった侵略者の能力は、俺という存在の都合のいいように効果範囲内に入っているものすべてを支配することだ。

 霧を生みだせていたのも、霧という現象を在ったことにするというチートな力による。

『──ッ!』

 子犬タイプの森獣は咆哮を上げ、その振動は俺を一瞬で死に戻らせた。
 肉体は瞬時に再構築され、侵略者の力を擬似的可視化した霧も周囲に散ってしまう。

 ──そしてそのまま、森獣へ届く。

『──ッ!?』

「普通の奴が相手なら、それだけでも充分だろうが……いやまあ、普通なら咆哮を受けてももう少し耐えられるだろうけど」

 森獣から霧は漏れ出していない。
 だいぶ侵略が進んでいるようで、霧を出す余裕がないのだろう。

 そんな子犬の中へ、俺の支配下にある霧が入るもんだから──もう大パニック。

「じ、自分でやったことだが……もうえげつないほど効果があるな」

《しかし、方法としては正しいです。確実に侵略者を内側より滅ぼしております》

「あとはポーションをぶっかけて……本当、侵して水を掛けるって雑すぎる」

 しばらくすると、子犬型の森獣はバタンと地面に倒れ伏す。
 そこにレベル6級ポーション(万能薬エリクサー)を振り掛け、あとは放置だ。

「さて、今度こそ破壊しないとな……とまずその前に、塞いでおかないと」

 妖しい門は現在、完全に開いていない。
 しかし薄っすらと霧が漏れ出ており、いずれはそれが全開となって常時侵略者が活動できる環境が整ってしまう。

「侵せ──“侵略者”」

 靄を扉に放つと、まず隙間から漏れて出ていた霧をすべて取り込む。
 その後扉を塞ぐように動き、そのまま形が変わり完全に扉を閉める。

「これであとは壊すだけ」

 外界との接続は断った。
 まあ、今のままでは反対側からどうにかするだけで再び接続されるのだが……だからこそ、その前に壊す。

 そのための便利グッズは、大量にあるし。

「『万壊の破城槌』×10」

 人形を十体用意し、準備した破城槌を装備させ扉の前へ向かわせる。

 それぞれがセットを終えた所で、いっせいにソレを起動させた。
 瞬間、轟雷のような凄まじい音が森の中で鳴り響く。

 一つであれば耐えきれたであろう……が、俺の肉体を全壊させた場合にのみ生成されるこれは、あっさりと扉をぶち破る。

 まあ、『SEBAS』の演算によって完璧に砕けるように破城槌を配置したからでもあるんだが……とにもかくにも、扉は完全に沈黙した。

「……これで、終わったか?」

《いずれは時間経過によって侵略者たちも沈黙するでしょう。森が保有する力があれば、それで充分かと》

「…………もう帰るか」

《聖獣に目を付けられることを考えれば、それも一つの方法です》

 うん、本来ここは入ってはいけない場所。
 東フィールドの悲劇を再度味わうことの無いようにするため、今回は退却する。

 いずれ祭りの期間とやらになったら、改めて来ることにしようか。


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