虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

大森林 その10



 グチャグチャになった魔物の死骸が森を汚し、穢していく。
 吹き荒れた旋風が収まると、呑み込まれていた魔物たちの肉体が降り注いだ。

「けどまあ、これからが本番なんだよなぁ」

 そう、魔物は先ほど放った一撃で終わらせることができた。
 しかし、本題である侵略者を処理することはまだできていない。

 黒い靄は地上に降り立ち、まだ活動可能な肉体へ入っていく。

 そうでなくとも、可能な限り使える部位へ侵入すると、それぞれ継ぎ接ぎを合わせて動ける肉体を生みだしていた。

「条件は満たしたな──『覇獸』」

 現在、【魔王】の細胞によって『覇獸』の権能をほぼ100%再現中だ。

 セットした称号は侵略者特攻のものだし、先ほどの攻撃もわずかではあるが仙丹を混ぜたお蔭で侵略者を倒せている。
 本来、『覇獸』の権能は喰らうことまででワンセットな能力だ。

 しかし、一部を取り捨てし劣化させることで、その条件を緩和させられる。

「起動しろ──“侵略者”ども」

 脳裏を駆け巡る能力の取扱説明書。
 ただ、規格が異なるプログラムを扱うような不具合が起きているようで……ザザザッとノイズが走る感覚に襲われる。

「『SEBAS』……任せた」

《畏まりました。代理演算を行うことで、思考拡張を実行します──成功しました。一部制御を行い、旦那様の思考を確保します》

「ああ、助かった……一気に同じ情報とか被る部分が有ったからな。整理できたら、改めて情報を送ってくれ」

 今は『覇獸』の権能が必須なので、それを操作することはできない。
 なのであくま戦闘データの再現だけで、侵略者たちと闘わなければならない。

「『剣矢』、そして『乱射の雨矢』」

 一本の矢を番え、空に向けて射る。
 するとそれが二本、四本と増え……数え切れないほどに増加し地上へ降り注ぐ。

 この場に居る者の数に合わせ、その数が増大する矢の雨──それらが侵略者へ向かう。

「次──『凍死の寒矢』」

 触れただけで肉体を凍えさせるような冷たい矢を握り、侵略者たちの下へ飛ばす。
 すると進路に不自然な風が吹き、通過した場所の周辺に氷を生みだしていく。

 そして地面に突き刺さると、これまでとは比べものにならないほど強固な氷を張る。
 これなら侵略者たちをそのまま封印することが可能だし、できずとも長時間抑え込むことができるだろう。

 そのとき、『SEBAS』から情報整理の終了連絡が届く。

《お待たせしました。情報を[ログ]へ送信しました。なお、先にお伝えしますが、侵略者の能力には『覇獸』を最低20%使用する必要がございます》

「20か……なら、80を『騎士王』に変えてくれ」

《畏まりました》

 全能の権能なので、劣化しているはずなのにそれだけでも充分に効果を発揮する。
 頭に浮かんだ使い方を把握し、[ログ]を参考にしながら侵略者の力を振るっていく。


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