虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

覇獸 その03



「『闘仙』──『天閃腕』」

「今度は『闘仙』さんか!」

「続いて『剥意』──『夢幻斬』」

「くっ、りゃぁああ!」

 籠手の細胞の比率を組み換え、『超越者』たちの権能を模倣し使っていく。

 ちなみに『剥意』ことエルフの里長(弟)の権能効果は、幻覚に関する事象補正・極という半端ない幻術チートである。

 俺に幻術関係のスキルは当然ないのだが、自然現象である陽炎などを人工的に生みだしても、それを利用しようとするだけで勝手に補正が働くんだとか……自分で言っていて、全然意味が分からないけどさ。


 解析結果──『覇獸』の権能は予想通り、これまでに倒した魔物の力を一時的に使えるというモノだった。

 ただし、俺の想定外だったのは──それが能力値以外にも作用するということだ。

 使用条件は己独り(バフ含む)で対象を殺め、そのすべてを己の糧とすること。

 つまりどれだけいろんな意味で不味い存在だろうと、食べなければ『覇獸』は権能を発揮してくれないわけだ。

「【刀王】──擬刀『首狩』」

「危なッ!」

「【刀王】──『神速抜刀』」

 最近、自重が無くなってきた気もするが、そもそもその原因は周囲である。
 俺も必死に抗って、巻き込まれた騒動から逃げようとしている……アイプスルへの逃亡以外のすべてを許容しても、限界だった。

 だいたい、寄って集って虚弱な生産者に襲いかかるって……戦闘職じゃないって言うか生産職ですら無いんですけど?

 よくよく考えたら生産者(自称)だったわけで、拠り所が無い気がしてきた。

「『騎士王』……」

「そ、それは──!」

「──擬能『聖剣術』」

 裁定の剣たる聖剣エクスカリバー。
 一度目のお国訪問の際、なんやかんやの末に見せてもらった聖剣による剣舞。

 そのすべてを撮影し、可能な限り再現したのがこれから行う『聖剣術』の正体だ。

 ただ、それは綺麗すぎる舞いである。
 いや、綺麗すぎるが故に何が起こっているのかほとんど理解できないんだよ凡人には。

 なので勝手に動いて肉体が死に続けていること以外、俺にはいっさい知覚できない。
 そのため、ボーっと闘いの流れを見ている俺の視界には、苦戦して少しずつ後退していく『覇獸』の姿しか認識できずにいる。

 何がどうなっているか分からないので、危機感が持てずにいるのだ。

 ──そして、やがて首に剣を突きつけた所で強制的な行動が停止する。

「試合終了、そこまでです」

「……私の負けだ」

 すぐに剣を動かし、鞘へ納めるとそのままポケットの中へ片付ける。

 今回使っていた剣は、何せ聖剣を作ろうとした際の失敗作だ……頑丈さだけは保証できる逸品なので壊れずに終わらせられたのさ。

 ──なお、その劣化版は絶賛発売中!


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