虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

覇獸 その02



 そんなこんなで再び模擬戦となった。
 前回よりも観客が増えたのは、『覇獸』と共に国外へ出ていた者も観戦に興じているからだろう。

「せーじゃー、頑張れー!」

「あ、ありがとう……ござい、ます……」

「…………」

 応援してくれるヤー君だが、その俺を血の涙を流しながら睨み付ける『覇獸』。

 いや、本当に怖いんだが……その気持ちが分かってしまうので、とても複雑な心境で闘わなければならない。

「……準備はいいか?」

「え、ええ、構いませんよ」

「はいはい、両方とも準備できたみたいだから──スタートっと」

 面倒臭そうに【獣王】が片手を挙げて、すぐに振り下ろす。
 そしてその瞬間──凄まじい勢いで近づいてくる『覇獸』。

「死ねぇえええええええええええ!」

「いや、殺さないでください!」

「黙れぇえええええ! 我が子を守るのは、親としての義務だぁああああああああ!」

「……いや、それは理解していますけども」

 立場が逆だったなら、ショウやマイと親しい謎の誰かが居れば……きっと俺も冷静さを欠いて襲いかかっていたかもしれない。
 まあ、ルリはすべてを理解したうえで笑っている気がするけど。

 だからこそ、あえて暴力的なまでに拳を振るい続ける『覇獸』と闘う気にならない。

 前回【獣王】と闘ったときもそうだが、流れに流されて闘っていることが本当に多い気がするな。

「“金剛獅子”!」

「ごふっ!」

「まだまだぁ──“銀閃豹”!」

「がっ、ぐっ、ぎゃぁ!」

 どうにか細胞を手に入れ、『覇獸』の権能解析を始めてもらう。
 一つ目は攻撃がとても固くなり、二つ目は移動速度が凄まじくなっていたな。

 ──名に合った能力値が上がるのだろう。

 ただ、使う度に補正を受ける能力値は変更され、その前に使った能力の恩恵にあやかることができない。
 一度目ほど、二度目で受ける攻撃に威力が無かったみたいだからな。

 ……いずれにせよ、死んでいるけどさ。

「これで終わり──ッ!?」

「『剣矢』──『螺旋矢』」

 ポケットから弓、番えるは剣。

 未来の英霊のように、原典を劣化させたわけでもない──剣の銘は『喰獣の牙剣』。
 なんてことはない、俺が獣に食べられた際に生成された死のアイテムだ。

 武技が使えない俺の、再現技術。
 ほぼ100%模倣したはずの一撃は、ギリギリのタイミングで避けられ、殴られる。

 近づいてきたところで弓を取りだせば、回避不可能な一撃を放てると思ったんだがな。

「……今のそれ、『剣矢』さんのだな?」

「そう宣言したと思いますが?」

「やはりか……面白ぇ、あと何個隠してるか純粋に楽しみたくなってきた」

「えー……」

 ヤー君は盛り上がっているし、周りの観衆もまた楽しんでいる。
 まあ、あとでこれを出しに何かを要求すればいいか……ハァ、そろそろかな?


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