虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

幽源の世界 その05



 幽源の世界レムリアは霊体の世界だ。
 あらゆる物質もまた肉体という枷から解き放たれ、物理法則から一部が抜けている。

 だがすべてが異なるわけではなく、一部が遵守されていた。

「これって、どういうことなんだ?」

《霊体たちの共通の見解。思念がより強く伝わるからこそ、法則が魔力を通して書き換えられたのかもしれません》

「社会みたいなものってことか」

 常識とは世界における理のことではなく、人が生きていく中で築いた倫理観のようなものでしかない。
 これだけは守っておきたい、そう思えるようなものを忘れずにいるだけだ。

 そして時代と共に、それすらも歪んで最適化されていく。

 異なる時代には異なる文化があり、異なる生き方があるのだ……違うままであることの方が難しいだろう。

《霊体であることを自覚できている。それが法則の一部が異なる理由でしょう。肉体が無いからこそできること、そういった点が強く響いたのだと思われます》

「そうか……よし、会話のついでに作っていた装置が完成した」

 そう、『SEBAS』との会話は装置量産の暇時間を潰すためのものだった。
 霊脈云々の解析に少々時間が掛かり、すでに三日が経過している。

 まあ、そのうち二日は『SEBAS』がこの世界でも正常に機能するために必要となった時間なんだが……とにもかくにも、霊脈からエネルギーを解析し、この世界でも機能し続ける装置の作製に成功した。

「さて、これを周囲に設置して起動すれば効果が出る……んだったよな?」

《はい、ほぼ確実に》

 実験用として、俺の周囲を囲うように並べた装置を起動していく。
 作動音と共に起動したそれは結界のような膜を生みだし、不思議な感覚をもたらす。

「これで……成功なのか? アイテムは……よし、出せたか」

 これまでは使えずにいた、:DIY:を介さない複製していたアイテムの数々。
 それらをようやくこの世界の中で、取りだすことに成功したのだ。

「これで少し:DIY:を使って加工すれば、好きなだけ使うことができる。人形も弄って使えるようにしておくか」

 人形の動力源を少々改造し、霊脈から解析して生みだした『霊石』と呼ぶことにした結晶を埋め込んでおく。

 これにより、地表を漂うエネルギーを勝手に取り込んでくれるようになる。

「理を改竄する装置、か……そこだけ聞くといかにも悪役が最終回辺りで使いそうな装置だよな。まあでも、使えるモノは使っていかないと」

 ほんの少しでも:DIY:使用中に手を加えれば、それだけで装置が無くともこちらの世界で使用することができる。

 本日やることはそれ──あらゆる状況に備え、アイテムを使用可能にしておくことだ。


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