虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

悪鬼の巣 その01



 緊急納品を終えた俺は、すぐに現場へと急行する。
 ドローンを通じて状況を見ていたのだが、あまり芳しくなかったからだ。

「うわぁ……」

《被害は甚大です。すでにプレイヤー以外にも死者が出る寸前でした》

「間に合ったか……危ない危ない」

 この世界の住人には死が存在する。
 俺たち休人プレイヤーは何度死んでも蘇るが、彼らはそんな非常識な存在ではないのだ。

 箱庭で起きたあのレイド戦闘のように最初から居たわけじゃないので、蘇生薬を念のために持たせておいて正解だったよ。

「それで、プレイヤーはどれくらい?」

《十数人です。しかし、彼らはすぐに復帰して戦闘に参加しております》

「すぐにって……いろいろ凄いな。戦ってくれるのは嬉しいが、意識が気になるよ」

 デスペナルティは一定時間の能力値低下で済むが、それも課金アイテムで解消可能だ。

 バフで解決するという方法もあるが、その効果も弱まっているだろうし、完全復活は難しいだろう。

迷宮ダンジョンはどうなっている?」

《迷宮は現在も魔物を召喚し、数を増やしております。また、召喚系の能力を持つ魔物がさらに魔物を召喚し、その数は万を超えるものとなっております》

「考えたな……それなら特化系の迷宮攻略者なんて、もう戦いようがないだろうな」

《被害が出そうになった方々は、大抵がそういった者たちでした》

 何かを代償に何かを得る者たちがいる。
 今回のケースであれば、鬼に関する種族への能力値強化を得る代わりに、そうでない種族との戦闘時に大幅な低下を受けてしまうというものだ……永住するなら困らないけど。

「普段はどうしていたんだか……通常時でも召喚系の魔物は出てくるだろうに」

《いえ、これが初だったそうです。彼らの会話からもそういった情報がございました》

「迷宮さんも策士なのか? あえてやらず、ここぞの機会でお披露目ってか……ずいぶんと耐え忍んできたんだな」

 できるのにやらないのと、できないからやらないのとでは精神に掛かる負担は異なる。
 このたとえ、普通は前者の方がいいように取られるが……今回はそちらの方が重いように思えて仕方が無い。

 できないのならば、割り切れるだろう。
 しかしやれるのにやらないというのは、正義の味方であれば絶対に取らない選択肢だ。

 迷宮はやってのけた……少なくとも、情報隠蔽のできないヒーローよりは上だな。

「さて、これからどうするべきだ?」

《前回の試練同様、ドローンがあれば戦場は持ちます。その間に解決をしておくのが、街にとっても最適かと……》

「ならそうしよう。なんだか不思議と、そうしてもいいかって気になっている」

 素晴らしい迷宮核のデータをコピーするのも、結構やりたいことだしな。


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