虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
東国巡り その11
「うむ、どうやら待たせたようだな」
しばらくして、広間の上段に一人の男性が現れ座った。
その途端、周囲に張りつめた空気が漂い身が強制的に引き締まる。
腰に二本の脇差を携えた、長身の男。
動きやすいように改造された短袴を着たうえ、後頭部で黒髪を纏めている……髷とは異なり、ポニーテールのような感じだ。
「其方が妖刀を持ち込んだという男か?」
「は、はい。行商人をしております」
「うむ。そうか──まずは化けの皮を剥がさせてもらうぞ」
瞬間、俺は死んだ。
何をしたのか理解もできず、ただ死亡したという認識だけが残る。
いつの間にか彼は持っていなかった第三の長刀を握っており、鯉口が切られていた。
「殿、いったいなぜ!?」
「ふむ、やはり死なぬか。物ノ怪の類いではないと思ったのだが……あの女狐がまた面妖なことでもしたのか」
「……化けの皮、とはどういうことでしょうか? そして、私を殺した理由をお聞かせ願いたいのですが」
「『超越者』であったか? お前たちは誰も彼もが面妖な力を持つ。であれば、ぜひコイツに吸わせたかったのだ──その命を」
少し見える刀身が、ギラリと輝く様子に少しゾッとする。
殺す用の刀なんだろう、悍ましいと思えるほどに死亡レーダーが反応していた。
「しかし、これまた厄介なものよ。コイツが斬ったうえで、喰えずにいる命などそうそうありはせぬ。どこの使いだ?」
「……死神様より、私は試練を受けることで『超越者』となりました。『生者』の名を冠しています」
「死神か……いずれは神が、加護を与えたいと思える漢になりたいものよ。『生者』と申したな? わざわざこの【刀王】の下へ、何ゆえその身を晒した?」
どっかりと座布団に座り、訊ねてくる。
俺に対応能力が無いことは、今の挨拶で理解したのだろう。
三本目の長刀はどこかに消え、代わりに手は胡坐をかいた膝小僧に載せている。
「目的は先に伝えていただいた通り、妖刀を差し上げることです。その代わりに、見逃していただきたいことがある……ということもありますが」
「ふむ、それ自体は構わぬ。これまでも目に適う刀があれば、そういった願いを叶えてきた身である。……だが、それに値する刀であるかは別なのだぞ?」
「分かっております──こちらが、私が献上できる最大限の妖刀でございます」
そうして、ようやく【刀王】に刀を渡すことができた。
禍々しさのせいか誰も触れられないので、俺が直接届ける。
鞘に封印の札を貼っており、それを剥がすまでは引き抜くことができない──さて、これを【刀王】はどう見るんだか。
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