虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

お祭り騒ぎ



 再び訪れた寒防都市ブードだが、一つ先の区画が解放されたこともあって、街はお祭り騒ぎとなっていた。

 解放を望んでいた者は同業者の貢献に宴を起こし、真昼間から酒を交わしている。
 また別の者は己ではない誰かが解放したことを妬み、何かを企むように武器の手入れを行っていた。

「ずいぶんと楽しんでいるな」

《一定期間中に解放者が名乗り出なければ、その地はブードの管轄区域となります。そうなればあの地を拠点としてより遠くの区画を開拓できるようになる……ようはそういうことなのかと》

「まあ、別にいいけどさ」

 さまざまな思惑が錯綜しているようだが、俺には関係ないしどうでもいい。
 大切なのはこの街に家族がどう関わってくるかどうか、ただそれだけだ。

「……今ならレアな素材とか料理とか売っているのか?」

《はい。すでに何件かピックアップを済ませております》

「マジか! こうしちゃおられん、さっさと作業を始めなければ!」

 しかし、日本人としてお祭りを楽しむ心を捨ててはいないのが俺だ。
 たまに縁日とか、ルリや子供たちと行ったな……アイプスルでも今度、縁日っぽいことでもするか。

 なんてことを思い、その日一日は祭りを楽しむためだけに使いきった。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 翌日。
 街に衝撃が起こる──ついに解放者が名乗りを上げ、自身の領土として解放された区画の一部・・を手に入れたのだ。

 そう、あくまで一部である。
 曰く、自分では管理しきれないので提供したいと、解放者は言っていたらしい。
 都市の運営側はそれを了承、契約の下領土の九割を委譲してもらったんだとか。

 街は大盛り上がり、少しずつ可能となっていく北上計画に金が回るのは当然のことだからである。

「しかしまあ、いいのかね……あんな契約のやり方で。結構穴があっただろう?」

《旦那様にはアイプスルがございます。こちらを徹底的に管理したい、といった欲が無いことは承知しております》

「だからあんなやり方にしたと……まあ、いずれにせよWinWinな取引だったんだから、誰にも文句は言わせない」

《感謝いたします》

 さて、もちろんながら解放者とは俺のことで、この街と契約をしたのも俺だ。
 ただし、本人は祭りを楽しんでいたので、カモフラージュとして用意した人形が代理人として契約を行った。

 この世界では、誰かの真似事をする魔物ドッペルゲンガーが【魔王】として君臨している。
 つまりコピーや偽装、虚偽に関してかなり寛大な世界でもあった……もちろん、違法な行為はアウトだぞ。

「人形だから危険な行為に巻き込まれることはないし、契約に縛られることもない……素晴らし考えだ、『SEBAS』」

《お褒めにあずかり光栄にございます》

「審査がそこまで細かくなかったのは、こちらとしても幸いだったな。まだ未解放だったからこそ、そういうやり方をまだ確立しきれていなかった」

 次回からは……どうなるんだろうな?
 まあ、そもそも次の解放者が俺だという可能性はそう高くはないけど。


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