虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

魔王城再訪 前篇



 アイプスル

「よし、【魔王】の所に行こうか」

「! い、いいの……ですか?」

「ああ、うちの家族も歓迎してくれたしな。ちょいとばかり、俺からの計らいだ」

 ある日、ミストゴーストの少女の下を訪れてそう告げる。
 彼女も建前上は外交官ということになってはいるが、実質的に奴隷のようなことをさせてしまっている……風兎の。

『むっ。カルルを連れていくのか』

「いつまでも、毎日ウサギの顔を見せているのも辛かろう。敬愛する奴の顔を見せて、少しはリフレッシュさせてやりたいのさ」

『そうか、ずっと働いていたのだ。その程度であれば……おい待て、それではまるで私のせいのように』

「──それじゃあ行こうか、さすがに問題だと思ったからちゃんとアポを取ってあるぞ」

 風兎が真実に気づきかけたようだが、それよりもカルルの不安を取り除いておくことの方が優先事項だ。
 行っても問題ないことを告げ、少々暗くなりかけた雰囲気を戻す。

「……行って、イイのかな? ……です」

「安心しろよ。新しい四天王とか、そういうのは居なかったからさ」

「……全然安心できないよ……です」

 そういう約束だ、契約で縛ったわけではないが物を渡してあるのだからあちらも従わざるを得ない状態である。
 このルート、最悪俺を働かせるパターンもありそうだが……まあ、どうとでもなるか。

「どうする? カルルが行かないなら、別に俺独りで行ってくるが……」

「で、でも……」

「──【魔王】、お前に会いたがってたぞ」

 そして、覚悟は決まる。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 魔王城を一言で纏めるなら──禍々しい黒き城塞、だろうか?
 その形状は少し誰かの頭部のように思え、またサブカル好きとしては城そのものがゴーレムに変形する? という疑問を抱かせた。

 謁見の間はそんな顔の両眼の間辺りに存在しており、【魔王】へ挑む愚か者を屠る。
 今日もまた、生きることと物を作ることしか脳に無い愚者がそこを訪れた。

「久しいな、我が友よ」

「連絡は出したはずですが?」

「そういう問題ではない。直接顔を合わせることが、何よりの交流なのだ」

「そうですか」

 最低限の数で行われた謁見。
 そこには俺とカルル、【魔王】と他の四天王だけしかいない。

 カルルは少し怯え、後ろで立っている。
 まあ、かなり緊張しているようだな。

「それよりも、俺としては外交官としての使命を全うしてる部下に、労いの言葉をかけるところが観てみたいよ」

「そうか……カルル」

「!」

「大義である。お前の働きは、魔族の未来をより良くするための行為だ。これからも、精進をするのだぞ」

 ずっと慕っていた主は、彼女を卑下することなく褒めるところから始めた。
 カリスマは違うな……この際、わざわざ玉座を降りてポンッと触れるまでがワンセットなシーンが特に。

「……さすがであるな」

「ハハッ、タダ働きはゴメンですので」

「ふっ、さすがは友である」

 この【魔王】はドッペルゲンガー。
 見て触れた対象を記憶レベルでコピーすることができる存在だ──何もしないと、あちら側に一方的に情報を奪われるからな。

 俺は『SEBAS』によって、その対策がいつもできている。
 今回はそれに似たことができる魔道具を、カルルに持たせていたのだ。

 そのため【魔王】がカルルをフルスキャンしようとしても、何も読み取れなかったということになる。
 だからこその、言葉であろう。

 ──それでもカルルが笑顔になってくれたので、帳消しにしてやるか。


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