虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

機械皇談(01)



 ツクルはすでに地上へ帰還した。
 部屋に残されたのは、壁に叩き込まれた一機の機体。

『──まさか、ここまでとはな』

 モニターからその様子を見ていたソレは、つい先ほどまで観察していた光景を思う。

 決して、手は抜いていなかった。
 数日をかけて調べ上げたデータを基に、完璧な勝利を得ようと尽力した……はずだ。

『最新式の物を送ってもまだ、届かないということか。『騎士王』が絡む存在は、いつも埒外の存在になる』

 三パターンの『超越者』が居る。

 条件を満たした者に譲渡する人工型。
 同じく満たした者が覚醒する天然型。
 それ以外の、ナニカによる系統外型。

 似た系統は存在すれど、まったく同一の存在は出現しない……それが『超越者』だ。
 あらゆる分野、概念において何かを逸脱した者たち。

 中でも、『騎士王』は異常だった。
 あらゆる才能に適性を持ち、性質の悪い場合は『超越者』すらも超越した力を発揮するほどの称号。

 それはその周りに居る者にも影響を及ぼすのか、配下である『円卓騎士』たちはそのすべてが『超越者』と渡り合うだけの戦闘力を有している。

 ──まさに、最強の国家だった。

『だが、問題はそこじゃない。『生者』がそれと同格以上に、世を渡っていることだ』

 生と死を司り、無限の残機を用いて生き延びる生存のスペシャリスト。
 強力な魔道具を操り、これまでもさまざまな危機的状況から逃れていた。

『そもそもだ、いったいどうやって権能のような力を二つ有している? 【魔王】以外にそれができる者はいない』

 生き延びるための権能。
 そして、もう一つ──モノづくりの才能。

 いっさい隠していないのか、つい先日までここでもそれを披露していた。
 小さく零した発言だけでも、『機械皇』が研究していた技術に、いくつものブレイクスルーが生まれているのだから。

 また、情報収集用に設置していた機材すべての破壊活動も、それに慣れ親しんでいる者にしかできないものだった。
 その時点で、確証していた……『生者』には、隠された力がまだまだ存在すると。

『前例はあっただろうか? ああ、たしかに存在した。だが、系統がいっさい重ならないというのも珍しい。方法はシンプル、故に難しい──すべてを満たすこと』

 先天的に選ばれ、後天的に目覚め、ナニカから力を与えられる。
 一言で纏められるその条件だったが、どうしようもない問題だった。

 ここまでの冷静な声は切り替わり、別の場所で声が聞こえ始める。
 それは、壁に埋まった機械からだった。

『……ふぅ。それにしても、監視装置は切られたようだね。あれは一番の機能、てっきりバレずに済むと思ってたんだけど……どうやら、あの機体も干渉できたかな? わざとアレは切ってないみたいだし、今後に期待しておこうか』

 そう言うと、機体に灯っていた光は輝きを失って活動を完全に停止する。
 モニターも、ノイズが走るだけだった。


「虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く