虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

野生王 その17



「簡易聖槍、とでも言いましょうか」

 鋭き槍、明らかに穂の大きさが異常な槍を握り締めて突貫するツクル。
 全身をレーダーのように研ぎ澄ませ、その一撃を躱す【獣王】。

 ツクルと槍はそこで静止するが、槍の放った風圧はそのまま真っ直ぐに飛び──再び壁に穴を作りだす。

「修繕はこちらで行いますのでお気になさらず。次はこちらで──簡易聖剣」

 黄金の鞘に納められた白銀の剣。
 眩い輝きと共に鋭い斬撃が放たれる。

「……ただの弱者ができることじゃないぞ」

「ええ、まあ。『超越者』の末端に居るらしいので」

「間違いなく、『生者』は頂点に近い。それは俺が保証してやるよ」

「お言葉だけ、受け取らせてもらいます」

 剣を振り回し、【獣王】を攻め立てる。
 もし『騎士王』であれば、槍を振るった時点で勝敗は決していただろう。

 模倣は完璧ではなく、あくまでツクルの肉体で行われている。
 おまけに身体能力の差を覆すため、強引な限界の超え方をしている……ギリギリまで似せてはいるものの、まったく異なる闘い方をしていた。

「私は『超越者』の末端……つまり、ギリギリ人の範疇に収まっているんでしょう」

「……そうは思わないがな」

 死んですぐに蘇る者を、普通の人族と呼ばないことぐらい【獣王】は理解している。
 だがそれ以上に、ささいなことで死ぬその姿は人族なのだとも認識していた。

「何度倒れようと立ち上がり、どんな手を使おうと成すべきことを成そうとする……それこそが人というものですよ。なかでも普人族は特にそれが強い。私もまた、その一員なのですから」

 剣のズレは戦闘の間に少しずつ修正され、最適化されていく。
 ツクルを常にモニタリングして動きを捉えることで、『SEBAS』がそれを一つ一つ修正しているからだ。

「弛まぬ研鑽、なんて言葉もありますね。天性の才能を超える努力……まあ、私にはできませんから別の物に頼ってますけど」

「それがこの力か?」

「ええ。私が自身を、そして守りたいモノを守るために創りだした紛い物の最強です。今は不完全ですが、これを究極の品まで昇華させたとき……私は安心して、守りたいものと共に居ることができます」

 甲高い音が鳴り響く。
 コロリと落ちる長い爪、首に向けられた白銀の聖剣。

「チェックメイト、降伏を勧めます」

「……働きたくないな」

「ヤー君も、きっと働いている方がかっこいいとか言ってくれま」


「──参った!」


 いつだって、子供は最強だった。
 こうして、俺たちの闘いは幕を閉じる。


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