虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

革命 その04



「……今、なんと言った?」

 それは突然のことだった。
 白い人形たちが動きを止めたかと思えば、すべてが暗殺ギルドの中へ戻っていく。
 それを隙と思い指示を出そうとすれば──暗殺ギルドの中から、建物の外で様子を窺っていたはずの『生者』が現れる。

 そして、行われた説明。
 本当に唐突なことであった。

「ですから、目的は達成です。英雄様たちが求める神代魔道具を借り受ける契約を、私が行いました」

「なぜ、それを知っている……。私は君にそれを伝えてはいないぞ」

「『生者』たる者、自身が生きるためであれば貪欲に足掻くものです。もちろん、情報収集も欠かしてはいませんよ」

 これまでと同様、変わらぬ作り笑いだ。
 決してこちらに素性を見せることなく、奴はあっさりとそれを成し遂げた。

 この作戦を実行するために、どれだけの犠牲が払われたと思っている。
 ポーションだってそうだ。
 もっと早くお前が現れていれば、救えた命もあったはずなのに……。

 いや、これは八つ当たりでしかない。
 同志であろうとなかろうと、個人を軸に動いてはならないのだ。
 ……だが、なぜだろう。

「英雄様、では向かいましょう。護衛の数は自由にしていいとのことですので、人選はお任せします。お二方にとって、この話し合いが有意義になることを……祈っております」

 飄々とした雰囲気のせいだろうか、これまでのこともあって無性に腹が立つ。
 冷静に考えれば、このような機会を整えてくれた『生者』に感謝すべきなのだろう。

「…………ふんっ」

「おや、嫌われてしまいましたか。私としても英雄様のご活躍を願っていたのですが……申し訳ありません。この選択こそが、もっとも無血革命を可能とする方法だったのです」

「っ……! そうか、分かった」

 革命、か。
 私の選択はその言葉によって定まった。

「メリンダ、ついてきてくれ。他の者は、一度撤退を──」

「ああ、そうでした。他の方々は、ギルド内で待機してほしいとのことです。この場を移動すれば厄介なことになるらしく……」

「厄介なこと、だと?」

 信頼できる私の親友に声をかけ、他の者たちは一度離れさせようと思ったのだが……ここで再び、『生者』から声がかかる。

 この場に居ても、いずれ別の領域から来た先兵に襲われるだけではないか。

「ええ、まあ……この街も、一枚岩でないことは知っているでしょう? 貴方がたの行動は、すでに知られていますことですし……匿われることこそが、生存する確率のもっとも高い道ですよ」

「……全員、ギルドの中で待機だ」

 いったい、何を考えているんだ。
 どいつもこいつも意志が錯綜し、私たちの革命を使って何かを企んでいる。

 ……それは、分かっていたことだ。
 それでもやらねばならぬことが、闇厄街の者たちにはあった。

 それを救うことこそが、英雄に選ばれたこの私の役割だ。


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