虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

闇厄街 その06



「そうか……知られていたのか」

「全員に告げていない、のですか? 信頼できる者も居るでしょうに」

「ああ、居る。まだ君は会っていないがな」

 協力者が一人でもいないと、そんな状態もやってられなくなるだろう。
 一人で抱え込んで、心をすり減らしてしまう者を何度も見てきた。

 英雄はそうではなく、頼れる協力者が居るのだから安心だ。
 抱え込むモノが社会人よりもデカい、まさに生死を分けた覚悟でその行動をしている英雄にとって、それは心強いだろう。

「だが、これ以上は隠せないのか。この魔道具が世に出れば、私の正体は間違いなく晒されることになる」

「では、どうしますか? 私に流通させないのもよし、口封じをするのもよし、方法はたくさんありますよ」

「──こうしよう」

 英雄が魔力の流れを切る。
 それは、魔道具に流していた分。
 つまり──

「私の姿を隠すこの魔道具は、ある種の楔となっていた。ただ無造作に力を解き放ったとしても、誰もついてこないからな」

「やはり……」

「英雄としての力は、本当に必要となるときまで使わなくても構わない。必要とせず、事が成せることが最善……どうしたのだ?」

「美しいですね」

 中世の女英雄も、現代においてとても見た目麗しい存在として描かれている。
 そんな常識が存在する今、革命を行おうとしている女英雄の見た目がどうなっているかなど、見ずとも理解できただろう。

「私の妻には劣りますが、とても奇麗です」

「……褒めているのか分からないぞ」

「お気になさらず。私にとって、彼女は女神に近しい存在ですので。人間という枠に収められていることが、時々不思議に思うほど神聖な存在ですよ」

 特に、幸運的な部分が。
 少し脚色しすぎたが、ルリは美しい。
 初めてオフ会で会った時なんて、一瞬意識が喪失したほどだしな。

「英雄様、結局こちらの魔道具はどうしたいのですか? 方法は二つ、そのまま売ってその姿を晒すか、新しい偽装の魔道具をご購入頂くかです」

「あくどい商売だ。選択肢が一つしかないとはな」

「ちなみにですが、偽装の魔道具もまたお気に召す品だと約束しますよ。ただ姿を隠し、誤魔化すだけでなく、それ一つでステータスの三重偽装まで可能となります」

 ただ鑑定が使える奴は一つ目、それを見抜く看破系の能力の持ち主は二つ目、居るかもしれない解析特化の『超越者』対策が三つ目の偽装となっている。

「一番の効果として、ただ姿を誤魔化すだけでなく認識をズラすことができます。認識を書き換える、特殊な一品。こちらは一点物ですが……ご購入なさいますか?」

 少しばかり悩む英雄。
 そしてその決断は──毎度ありがとうございました。


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