虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

カジノ その10



「──さあ、入りましょう」

 うーん……どう説明するべきか。
 あっさりと開いた扉を前に、『賭博』はこちらを向いて俺を招き入れようとする。

 一言で言えば──自動ドアだった。
 裏VIPカードが鍵となっていて、門がそれを認識すれば開けることができる。
 ……自動ドアっていうと、なんだかファンタジー感が削がれるから言い方に悩んだよ。


 なんてこともあったが、裏VIPエリアへ無事入ることができた。
 そこは見る人には分かるような、国宝級の品々が揃えられた部屋だった。

 ただし、ゲーム台などはいっさい置かれていない……場違いの透明なナニカの上で、すべてのゲームが行われている。

「──黄金の『お』の字もありませんね」

「真のギャンブラーだけが来ることを許された、この『賭博』が経営するカジノよ? 派手な宝石や金で装飾する必要はもう無いの。ここだけは私の権能を全力で使って、好みの場所にしてあるわ」

「権能、ですか……」

 わざわざこのタイミングで、それを切りだすことに意味があるのだろう。
 まだ知らぬ『賭博』の権能。
 間違いなくギャンブルに関することだとは思うが、詳細は不明だ。

「これまでのカジノは、チップを介してゲームをやってきてもらったわ。そのチップも当然お金が元になっていて、ほぼ・・安全な遊びとしてゲームができたわ」

 ほぼ、というのは──景品に紛れていた、地球では絶対に景品として存在しないスキルや職業の権利系のアイテムのことだろう。
 払え切れなかった対価として、あれらはおそらく──

「……つまり、この先は」

「そう。ここではあらゆるものをチップに換えて、ゲームを行うことができる。それこそが私の権能──『賭博』の力よ」

 あらゆるもの、そこにスキルや職業なども含まれているのだ。

 この世界の人々にとって、それらは自らの人生の縮尺図と言っても相違あるまい。
 そんな切っても切れない存在を切り離し、賭けの対象として扱うことができるのが──『賭博』の権能というわけだ。

「もちろん休人のものでも問題ないわよ。コロシアムに闘奴をしている休人がいたと思うけど、アレは賭けに負けた人たちだから」

「全員ここまで来たのですか?」

「まさか……。少しばかり、ゲームに負けていたから援助してあげたのよ。なのにあの人たちはチャンスを棒に振った……その成れの果てがあれよ」

 俺も裏VIPカードでチップを借りて、好き放題していたらそうなっていたかもな。

「…………」

「けど三人、ついさっきの試合でそれを脱していたわね。もしかして、『生者』が絡んでいるのかしら?」

 ああ、俺が儲けた分でなんらかの条件を満たしたのかな?
 それなら俺も闘奴になって働けば、充分に借金も払えそうだ。


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