虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
第一権限 その08
レムリアには、とりあえず『アイプスル』へ先に帰還してもらった。
どうせ俺は集めた品を発送する必要があるので、冥界の地下の扉から帰る予定だ。
「『SEBAS』、解析は?」
《すでに終わっております。──座標指定、目標冥界の扉前……で、よろしいですか?》
「ああ、頼む」
黒霧の解析が終わったため、帰りは楽に転位で帰ることができる。
……むしろ、それができなきゃいったんログアウトしていかもしれないな。
細かい座標に関しては『SEBAS』に任せ、俺は転位が発動するのを待つのだった。
◆ □ ◆ □ ◆
「なるほど……苦労したようだな」
「最悪、一つは素材を持ち帰ろうとしたんだが……それしかなかった。植物とか、何か自然に発生するものはあそこにないのか?」
「あそこは冥界の中でも深淵に近き場所。生命は存在を否定され、生まれる可能性を根本から断たれている。本来であれば、この虫のような物が、番人をしているはずだが……ご苦労だったな」
門から脱出した俺は、そのまま謁見の間へ向かった。
集めておいた素材はその前に衛兵に渡しておいたので、その一つを今『冥王』はちゃんと受け取ったのだろう。
「特に黒い霧が厄介だった。生命力、魔力、精神力のすべてを奪おうとするもんだから、虎の子を使うしかなかったんだぞ」
「ほう、『生者』の虎の子ね」
「調べれば分かることだから言っておくが、『龍王』さんの結界を俺なりにアレンジしたものだな。強度は劣るが、コスパで言えば俺のヤツの方が優れている」
「結界……なるほど、それで肌に霧が付着することを防いだのね」
結構使っているので、魔力を可視化することができる人ならすぐに見抜ける。
いちおう透明にもできるんだが、それすらも見抜ける──いわゆる上には上がいるのだからどうしようもない。
科学的なバリアが生みだせれば、良かったのだが……そんな宇宙世紀にでもならないと生まれない技術は、あいにく持っていない。
あくまで『龍王』さんの結界を元にした、改良を重ねた結界だけで生きている。
「……まっ、そんなわけだ。探索もできたから俺はそれで充分だ。行きたくなったら、また行ってもいいか?」
「まあ、いいわ。もう一度訊くけど、魔物はこの虫以外にはいなくて、黒い霧とやらが厄介。それ以外に伝えることは無いのね?」
「ああ、他に魔物もいなかったし厄介な環境効果も無い。対策だけしておけば、たぶん大丈夫だろう」
「……そう、ならもういいわ。帰ってもいいわよ」
「そうか。ならそうする」
嘘を見抜くスキル、そんなものもある。
だがそれは魔力を伴うし、相手にそれをぶつけなければいけない。
俺の嘘を暴くには、自力が必要なのだ。
(だが、現代社会において嘘ではない嘘を吐き続けた俺に、そう不覚はないさ)
そんな必要に応じて身に着けてしまったPSのことを思いながら、謁見を終わらせるのだった。
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