虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

第一権限 その06


(……あれ?)

 ソレは、暗闇の中に囚われていた。
 無限に続く永遠の牢獄は、いつしかソレの認識するすべてを奪い去っていった。

(……あれあれ?)

 だが、それは唐突に幕を閉じる。
 霞がかかっていたような意識は、少しずつ冴え渡っていく。

 五感が覚醒し、神経が走り、意識のスイッチがONとなる。

(……あのとき、私は……)

 記憶を手繰ろうとするが、目覚めたばかりだからか曖昧なものしか脳裏に浮かばない。
 ふわふわもやもやとしたイメージは、ソレに正しい情報など与えることはない。

(なら、ここは……)

 意識を切り替え、現状を把握することに。
 循環する魔力は正常に使えるので、視力に使い暗視の力を得る。

 そこに映るのは──

  ◆   □   ◆   □   ◆

「……まあ、定番中の定番だよな」

《解析完了──種族『普人族』、旦那様と同じでございます》

「出会う場所が違ったなら、ごく普通の奴だと思えたんだけどな……」

 輝くような金髪の、少女がそこには居た。
 闇の中であるはずなのに、少女だけが発光しているようにも見える。

「──あれあれ?」

「起きたな」

「おじさん、誰?」

「お、おじ……。ここは冥界の最深部、君は黒い霧の中に囚われていたんだよ」

 まだ20代だというのに、おじさん呼ばわりか……外見は色以外、何も弄っていなかったはずなんだが。

 正直精神は死に戻りをしたいと訴えていたが、少女を放置するわけにもいかないので対応していく。

「えっと、いろいろと聞きたいことがあるんだが……その前に一つ」

「?」

「服を着ようか」

 自動調整機能のある子供服を取りだして、後ろを向きながら渡しておく。
 しばらくすると、ガサゴソと音が鳴る。

「もういいかな?」

「いいよ」

「……『SEBAS』、どうだ?」

 少女は了承していたが、なんだか嫌な予感がしたので確認をしておく。

《旦那様の予想通りです》

「ふ、服はちゃんと着たかな?」

「?」

 少女が首を傾げていると、『SEBAS』から再び報告が。



 それから四苦八苦、どうにかして自発的に服を着せることに成功した。
 なのでようやく、少女と顔を合わせて話すことができる。

「えっと、君の名前は? 私はツクル、君と同じ普人族の者だ」

「私は■■■■」

「? もう一回いいかな?」

「■■■■、■■■■だよ」

「……聴き取れない」

 名前だけ、ノイズがかかったように耳が聞き入れることを拒否している。
 ……まあ、どうとでもなるが。

「『レムリア』、これが君の名前かい?」

「うん」

「そっか。よろしくね、レムリアちゃん」

 おそらく何かイベントフラグでもあり、聞き取ることもその一環なんだろうが……方法はそれをやることだけじゃないさ。


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