虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

巫女 その09



「お疲れ様、千苦。どうやら耐性の方は付けてくれたようだな」

「……あんな小さなもので、このような惨劇から逃れられるとは。人が恐ろしいのか、それともツクルが恐ろしいのか」

「俺じゃない、人間だよ。俺の技術は、人間のモノなんだから」

 千苦に予め渡しておいたのは、『永眠の死弾』に対する一時的な耐性を付与する超特殊アイテムだ。

 ……今の技術力では、完全な耐性を創りだすことはできなかった。
 それほどまでに、眠りの効果が強かったことはさておき……どうにか勝った。

 改良して、スモーク状にしたそのアイテムによってほとんどの物ノ怪が眠りに着いた。
 問題なく使用できたな……よし、実験は成功である。

「というか、そもそもこの戦いに意味なんてあったのか? 俺の全力を注いだ鳥居は、そもそもこいつらが全員で襲っても破壊できないんだが」

「……言ってやるなよ。こいつらが報われなくなりそうだ」

 あっ、やっぱり物理的な破壊しか考えられなかったのか。
 他にも魔法による特殊な封印に対する耐性も、異常を検知すると過去のデータを読み込みバックアップする術式で意味がない。

 実際、狐魅童子がどうこうしない限り、鳥居は決して使えない状態にはならなかった。



 眠った物ノ怪たちはとりあえず放置。
 最初の部屋に戻り、狐魅童子と謁見する。

「ツクル、誰も殺さなかったこと……感謝したいのじゃ」

「気にすんなよ。もともと千苦を説得するとき、不殺が今回の必須条件だってことはなんとなく理解してたよ」

「ほぅ……」

「俺が一人でも殺してたら、お前はきっと辛くなっていだろ。恨んだり怒るわけでもなくて、それを止められなかった自分を激しくしかることになる。……子供にそんなことをさせるほど、俺たち大人はひどかねぇよ」

「…………」

 話からでも、狐魅童子の善性が感じられたのだから……言い方が上手かったのか、それとも本当なのかと思っていた。
 実際にはその両方だったが、そこは置いておこう。

「結局のところさ、ここが問題だと思ったんだよな。お前がこの変化を、真の意味で受け入れないとやった意味がないんだし」

「狐魅童子様……ご決断を」

 千苦も分かっているので、共に交渉へ。
 簾があるとはいえ、ギリギリまで近づくのだが──

「「あっ」」

「……負けじゃ負けじゃ。変化を受け入れられぬとなれば、父上や母上と同じになってしまう。私も……決めたのじゃ」

 簾がシャーっと上がり、狐魅童子の姿が晒された。

 滑らかな銀色の髪と……狐の耳と尻尾。
 額からは一本の角が生えている。
 日本人形のような顔立ちの、着物を着た美少女がそこに座っていた。

「ツクル、千苦、案内せよ。その新しい世界とやらに」

 ニコリと笑顔を浮かべ、少女は言った。


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