虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

矯正



「カルル、調子はどうだ?」

「あ、うん。大丈夫……です」

「敬語は要らないんだけどな」

「ぜ、善処するよ……ます」

 風兎の社の辺り。
 ミストゴーストの少女は、そこへ預けられている。
 風兎による教育が行われたのか、なんだか敬語が語尾に付くようになった。

「そういえば、風兎は居るか?」

「クローチル様は森を巡回するって言ってたよ……です」

「様付けまで……苦労してんだな」

「私が悪かったんだよ……です。クローチル様は魔王様と同じくらい、私に優しくしてくれてるよ……ます」

 顔に憂いはなく、たしかに大切にされていることが分かる。
 風兎はもともと、森の魔物たちには優しくしてたからな。
 ──訳あり少女(魔族)にも、同じ星の住民として何かしたのだろう。



「──と、いうわけで機械のドラゴンがこの世界に配備された」

『何が、というわけだ』

「まあ、食べ物を必要としないドラゴンが少し守護に加わるってだけだ」

『……そうか。この星はお前が管理する星なのだ。好きにしろ』

 風兎の元に来たのは、これを説明するためである。
 他の魔物にも通達してくれるので、誤って攻撃するという展開にはならないだろう。

「あっ、そうだ。カルルに変な教育をしたんだろ。駄目だぞ、無理矢理は」

『奴は最初、人間への激しい憎悪を懐いていた。それを矯正する一環だ』

「……俺は?」

 たしかに、この世界に連れて来る前は猛反発されたが……それ以降は何もなかったぞ。

『何を言う、お前は人外じゃないか』

「ひどっ! 俺も立派な普人族だよ!」

 プレイヤーではあるが、それでもちゃんと普人族になっていたはずだ。
 ……心配になってステータスを確認したけど、ちゃんと【普人】と表示されていた。

『それにだ。【魔王】という依存対象がいない今、奴には代わりの何かが必要だ。今は私が厳しさで埋めているが……そのうちお前にも働いてもらうぞ』

「俺にできることがあるならやるぞ。ただ、厳しすぎるのはかんべんな」

 いったい【魔王】がどういった経緯で、カルルを四天王に引き入れたかは分からない。
 それを訊くのは野暮だと思ったし、話したくなるまでは放置で良いと思っている。

 ──ただ人間への恨みってのは……過去に何かあったんだろうな。
 厳しくするのは難しいが、父親のように接するぐらいならリアルファザーとしてどうにかやってみよう。

『安心しろ。私が鞭ならお前は飴だ。それもかなり甘いな』

「?」

 飴を作っておけということか。
 最高級の甘さの飴となると、原料にこだわる必要があるな。

「任せておけ、いい仕事をしてやる」

『期待しているぞ』

 この後は、星の状態についての話し合いが続いていった。


コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品