虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

VSミストゴースト 前篇



 一日の間に体を完璧に使いこなした『SEBAS』。
 頼んでみたら、やはり大車輪も行えばすぐにできていた。
 ……大車輪、本当にいつなんだろう。

「さて、今はこちらをどうにかしないといけませんね」

「…………」

「あの、私は──」

「……黙れ」

 俺はなぜか今、魔王城の中にある訓練場に立っている。
 本来ここで特訓を行う魔王軍の精鋭は、俺と俺に相対する対戦相手を見つめている。

「カルル様、本当にどうされたの──」

「黙れ! ……黙っててよ」

 こうなった経緯を思いだすのが、おそらくなんだか複雑な現状を解決する一番の方法だろう。

「──両者、始めよ」

 兵たちへの威厳などもあるので、俺にも厳しめな命令形の【魔王】が闘いを始めるように命ずる。
 意識を空っぽに、棒立ちになった状態で俺は記憶を洗っていった。

  ◆   □   ◆   □   ◆

『えっ、模擬戦ですか?』

 たしか……【魔王】に呼ばれてこの場所に転移してきたんだ。
 俺が許可なく侵入したことには何もツッコまず、【魔王】はこう返事した。

『うちのカルルと一戦してもらいたい。一度『生者』の力を魅せてやってほしいのだ』

『それは構いませんけど……どうして、このお方なんですか?』

 そりゃあ疑問だったさ、俺が来たときに一番殺気を放っていた人を名指しで指名していたんだから。
 イジメ? とも思ったが、【魔王】はこう答えた。

『カルルは信じられなかったのだ、『生者』に力があると。我はコヤツに罰を与えることにした……だが、それに納得がいかないと何度も不服を申し立てた。故に考えた、力を理解すればよいと』

  ◆   □   ◆   □   ◆

「──と、いうわけだったんだ。報酬が貰えるっていうし、やるしかないよな」

 思いだした記憶によれば、方法は問わずカルルと呼ばれた少女に参ったと言わせればこちらの勝ちだそうだ。
 種族的に死ぬこともないらしく、根を上げさせるために滅さないならば何度でも殺していいと言われてしまう。

 ……そういった、俺が勝つ前提の話をされるたびに、内なる殺気に死亡レーダーの警告音が強くなっていたな。

「早く参ったって言わないと死んじゃうぞ、人間風情はさぁ!」

「そうは言ってもですね……死人に口無しと言いますので」

「こっのくそ『超越者ゴミ』が!」

 心身ともに傷ついて少しずつ蓄積される。
【魔王】がいるというのに汚い言葉を剥き出しにして、何度も何度も魔法を放って俺を殺し続ける少女。

 うーん、どうにか誰も不幸にならない素晴らしい解決方法は見つからないものなんだろうか。


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