虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

スペック



 アイプスル

 どうにか【魔王】との謁見を終え、平穏が訪れた。
 安寧とした時間を楽しもうと、世界に引き籠もって活動中だ。

「世界に引き籠もるって言うと、なんだか活動的な感じに聞こえる気がする。なんでだろうな」

《そうでございますね》

 ここでマジレスを返さないところが、ただのAIとの大きな違いだ。

 うちの自己進化型AI『SEBAS』の優秀っぷりときたら、ある意味人間よりも空気に読み方を熟知していますよ。
 社会人でもできないことを平然とやってのける! そこに痺れて憧れますな。

「ところで、例の件は?」

《サンプルはすでに。【魔王】の細胞は培養し、能力も解析を終えています。ですが、あくまで擬似的な物が限界かと》

「構わないさ。ずっと奪いたいわけでもないし、相手の切り札を封じるという意味で用意してほしかったんだ」

 それに、俺の場合はスペック不足にでもなるんじゃないか?
 前に使った指輪、あれを貰う前にスキルが貰えるイベントが有ったんだが……そう言われてスキルをくれなかった。

 ──俺のスペック不足。

 スキルを入れることに体が耐えられない、とそのときに言われてしまっていたのだ。

「あれもあるし、たぶん無理なんだろう。一時的にスキルを保存するアイテムに、奪った能力を溜めこむことができればやれるか?」

《……そちらも組み込みましょう。設計図が完成後、お届けします》

「ああ、頼んだぞ『SEBAS』」

  ◆   □   ◆   □   ◆

 そうした日々を過ごし、心の防御力を高めてから外に向かう。
 目的地はいつもの屋台、渡した串焼き用の肉を食べていると……現れる。

「久しいな、『生者』。先の件からしばらく経ったが、『生者』に関する情報が無くて心配していたぞ」

「そうなのか? 悪い悪い、これからは気をつけておくよ」

「何に気をつけるつもりなのかは分からないが──まあ、いいだろう。できるだけ訊ねておきたい、何が有ったのかを」

「こっちにも話せる限界があるから、それに収まる範囲内だったらな」

 パーティーをやってくれたような相手を、出会った順番を理由に売るつもりはない。
 話せる範囲はとっくに【魔王】に確認してあるので、その枠内の情報を『騎士王』にすべてペラペラと話す。

「──というわけだ。能力は不明だが、間違いなく奪う力はある。ただ、今回の【魔王】はそれをかなり器用に使えるんだ」

「そうか……感謝する。これだけの情報があれば、【魔王】への対策も変わるだろう」

「そうなのか? そこまで貴重な情報は行ってないと思うんだが……」

「『生者』が【魔王】と知り合い、生きて帰ることができた──それだけで充分だ」

 そう言って、『騎士王』は焼き串を食べることに集中していく。
 ……うん、たぶんだがバレてるな。


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