虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

魔族との取引



「【魔王】か……本当に、行くのか」

「暇ですし。何より、面白そうですしね」

「【魔王】は他者の力を奪う。それは歴代の【魔王】すべてに共通する力。方法は分からないとはいえ、それは其方とて同じこと……それでもなお、向かおうとするのか」

「──この世に私の興味をくすぐるものがある限り、どこまでも」

 王の間で、報告会の最中のこと。
 せっかくなので、魔族と行った取引内容の一部を教えてみた。

 内容は簡単──【魔王】への謁見。
 何かいい特産物があるかもと思い、会ってみようと思うのだ。

 そして、こんな状況に至るわけだ。
 能力強奪チート、創作物にはよくあるテンプレだが……オンゲーでそれをやっちゃいけないと思う。

 どういった方法で能力を奪うかは分かっていないようだし、仕組みを解析して逆に俺がそれをできるようになりたいな。
 スキル、未だに称号以外だと:DIY:と(鑑定)だけだし。

「これまでも和平を望んだ【魔王】の一人や二人、いたのではないのでしょうか?」

「たしかにいた。だが、そうした善意を持つ者はすぐに死んでいく。其方がそれを望もうとも、可能性は薄いぞ」

「……そう、かもしれませんね」

 そもそも、当代の【魔王】が和平を望んでいるとは限らない。
 というか、攻めている時点でほぼそれは無いだろう。

 ──けど、すべてでは無くとも下の者にはそうした思想の持ち主がいるかもしれない。
 俺が行うのは、そうした者たちが素を出して動けるようにすることだ。

 ショウたちはいずれ、魔族の元へ向かうことになるだろう。
 そのとき一人でも、ショウたちに協力する心優しい魔族がいれば……小さくとも、未来が変わるしな。

「『騎士王』。どうか、引き止めることも妨害することもしないでください。『生者』の権能は魔王が奪おうと、決して意味を成さない力。貴女の万能とは程遠い、取るに足らないものですので」

「そういうことではないのだが……まあ、構わん。だが、報告には来てもらうからな」

「はい」

 最後の部分だけいつものような声に戻した『騎士王』に、微笑を零してしまった。

  ◆   □   ◆   □   ◆

 そしてそれから数時間後、俺は再びサロックに戻っていた。
 準備はバッチリ、周りに監視の者がいるということもない。

「──来たか」

「時間通りだな、『超越者』」

 魔族の男が、ワイバーン的な魔物から降りて空から落ちてくる。
 綺麗な着地を決め、俺の元へ近づく。

「私もあの竜に乗るので?」

「ああ、私専用の騎竜であるクリムゾンワイバーンだ。乗り心地は保障するぞ」

「そうですか……では、お願いします」

 降りてきたワイバーンへ俺たちが跨ると、巨大な翼をはためかせて大空へ舞い始める。

 さて、どんな場所なんだか……。


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