虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

VS飛剣魚



 S10W6

「ひゃっふー! オーイェーイ!」

 大人げなくはしゃぎたくなる、大人だろうとそんなときがあるだろう。

 そして今、俺にとってのその状況がやってきている。
 荒れる渦潮を抜け、海流を乗り越え、猛々しく吠えるエンジンを動かして海を渡る。

 この瞬間、嗚呼このために俺は生きてきたのかもしれない。
 風と海といったいとなって天地のすべてを知ったような全能感が今、この場所に!

「……んなわけないけどひゃっほーい!」

 まあ、無事島から脱出したわけだ。

 だが、ボートを巧みに動かして移動するこの快感に呑まれ、脳が逝っちゃっているのが現状である。

 アドレナリンが大量にバーストして、胸の鼓動が湧き上がる……的な?

 次の区画に向かった俺を待ち受けていたのは先ほど挙げたような激しい波であった。

 その辺りに鑑定を行うと、何かしらの反応があったので……おそらく、魔物が人為的に生みだした現象なのだろう。

 しかし俺には、このボートが有った。

 普通のプレイヤーなら大人しく巨大な船にでも乗っていくだろうが、改造した結果戦艦にも匹敵する逞しさを獲得したこのボートならば……どんな波だって超えられる!


 この区画に島などは見受けられない。

 すでに反省してドローンによる調査を行っているが、もう一区画先に行かなければ休めるような島は無い。

 まさに魔物が準備した困難を乗り越える、そのためだけに用意された区画であった。

「……レーダーに反応有り、コイツはかなりの大物だな」

 魔物もただ、罠を仕掛けてくるタイプだけではない。

 そうした魔物が多いというだけで、直接攻撃を行う魔物も現れる。

 ──今も俺の元に、大量のそういう類いの魔物が現れようとしていた。

「コイツは……飛剣魚か。それっぽいし」

 群れを成して海面から現れたのは、体が鋭い剣のようになっているトビウオだ。
 空飛ぶ剣ってなんかカッコイイよな。

「だが甘い! 特殊兵装その1──ガトリングスタンガン発射!」

 音声コマンドを引き金に、船に積んでおいた空間歪曲装置からガトリング砲の台座が出現する。

 ──弾数無限、毎秒100発が発射される狂った代物だ。

 それ以上も可能だが、魔力の供給が間に合わなくなるので控えている。

「ヒャッハー! 穴だらけになりなっ!」

 超絶怒涛の弾丸ラッシュが始まり、スタン効果のある魔法の銃弾が一斉に飛剣魚の元へ飛んでいく。

 別にロックオンなどの機能は無いので、ほとんどのものは躱される。

 だが、数だけは大量だ。少しずつ、少しずつ命中していく。
 スタン効果は絶大で海の上にはプカプカと浮かぶ飛剣魚が増えていった。

「いちおう素材になるかもしれないし、回収できるのは集めるか。特殊兵装その2──アイテムキャッチャー」

 ガトリング砲は元の場所に消え、代わりに大きな手のような物が現れる。

 それはスルスルと伸び、気絶した飛剣魚の元へ向かうと──スッと上に覆い被さる。

 手が別の場所に移動した時、そこで気絶していた飛剣魚は無くなっていた。

 そして、この場所からボートがいなくなると──この海域の魔物の中でも、能動的に攻撃を仕掛ける魔物もまたいなくなった。


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