虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
仙人談
そしてツクルのいなくなった仙郷。
一度宮殿に戻ると『闘仙』と【仙王】は定位置に就く。
「行っちゃった」
「ワン、会いたいなら会えばいいだろう」
「ローさん……」
『闘仙』は若干目が充血している【仙王】にそう言うが、ただ【仙王】の頬を膨らませるだけに終わった。
「違うんだよ、別に。居てくれた方が楽しいからだし、特別会いたいってわけじゃ……」
「別に気にするな、『生者』の住む街への生き方は教えてやろう」
「……だ、だから別にそんなんじゃない」
「そうか。なら何も言わない」
実際、【仙王】が抱いているのは恋愛感情というわけではない。
自分を叱りつけ、言葉だけでなく行動で示してくれたツクルへの感謝の気持ち。
だが、尻を叩かれての説得という認め難い実情がそれを阻害しているので複雑化しているのだ。
「初代【仙王】も守護をしている、九龍帝国も当分は何もできない」
「ほとんどツクルがやったんでしょ? アタシだって戦えたのに……」
「子供はまだ守られていろ。『生者』は子を守る親の気持ちが分かっている。だから初代は『生者』を戦場に飛ばした」
「……そう、らしいけどさ。いろいろと無理がない? その説明。あのお爺ちゃん、結局最下層で待ってても誰も攻めてこなかったんでしょ?」
ダンジョンに侵入する帝国の者もいた。
貴族の私兵が軍となり――その数、数千。
いっせいにダンジョンへと挑み……一瞬で散っていった。
ツクルに奪われた仙丹を集め直し、激戦を待ち侘びていた初代【仙王】はその悲報に酷くショックを受けた。
それならばツクルにこの場を任せて己が上に行けば良かったと。
その結果終戦後地上に現れ、『超越者』二人を相手に暴れ回ったのだが……ここではあえて記さないでおこう。
「……あれは激闘だった。それよりだ、これからこの街をどういった街にするんだ」
「街を?」
「この機会だ、ちょうどいい。一度訊いておこうか。……帰って来たツクルが、どう思う街にしたいんだ」
「だ、だからツクルは関係ないって! ……でも、そうだな。どうせならこんな街なら良かったのにな、って考えはあるよ」
その思いはもともと持っていた。
この街に生まれてこの街に暮らしていたからこそ【仙王】はその想いを感じていた。
「――そう、王を必要としないニート郷!」
「……もう一度闘うか」
「ふっふっふ。ローさんじゃアタシには勝てない、今はまだね」
「それはどうだろうか、俺ももう一度修業を受け直したからな」
「なら止めてみなよ、どうせ暇なんだし!」
仙郷は仙人の住む郷。
膨大な時を生きる彼らに最近新しい風習が増えたらしい。
――シエスタ、と呼ばれる風習が。
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山登り篇はこれで終了となります
次回からは、本格的に『超越者』とお父さんが絡む……かも?
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