虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

仙王 その11



 それから話やらいろいろとあったが……とりあえず、割愛である。
 必要に応じて話せばいいし、秘密は男を男にするからな(オマージュ)。

 そんなこんなで、俺たちは【仙王】が生み出した広い空間に居る。
 ……説明がいる? 【仙王】が特別な異空間を生み出したんだよ。

「ルールは簡単、この空間から相手を追い出した方の勝ち。空間内の設定により、致死のダメージを受けた場合強制排出されます」

 リーシーさんのこの説明、これで俺の価値が無くなった。
 立てば絶命、座れば急死、歩く姿は遠征の途……死んでばっかりである。
 街の結界にも似たような仕組みはあるが、あれは精神に負荷を掛けてダメージを肩代わりさせているだけだ。
 この結界は、死に戻り関係なく致死であれば対象を排除する。
 ――つまり、戦闘が始まればすぐに死ぬということだ。

「『生者』、このルールで構わないか?」

「変更、できるんですか?」

「参加者全員が了承すればだが……特に必要なかったか?」

「ええ、できればお願いします」

 とりあえず、俺にその結界の効果は必要ないと説明しておく。
 とても不審がられたが、命懸けの闘争こそが云々と言って誤魔化しておいた。
 ……ただ、人を戦闘狂と勘違いしていたのでさらに説得する必要ができてしまう。
 片や同志を見る目をし、片や変人を見る目だったので焦りました。



 開始、の一言で『闘仙』さんは動く。
 俺では全く分からない超高速での移動、そこから始まる怒涛のラッシュ。
 それに【仙王】は、体を霞に変えて対応していた。
 どれだけ拳を振るおうと、どれだけ霞をバラバラにしようと【仙王】は退場しない。

 俺も何かしようと思うのだが、時々爆発や雷光が出るような場所には近付きたくないので観察だけに留めている。

「『SEBAS』、収集の方は?」

《仙術は解析中、『闘王』の動きは仙術を織り交ぜていますが一部は流用できます》

「なら回しておいてくれ、多いに越したことはないからな」

《畏まりました》

 すでに『SEBAS』を介して、戦闘は撮影中である。
 あとでバッチリ解析し、必要なデータを集めておこう。


 そうこうしている間にも、戦いは苛烈の一途を辿っていた。天変地異を思わせる衝撃、災厄が降りぐ技の披露。
 ただただ気づかれずに俺が死に逝くだけの戦いは、終盤を迎えている。

「……まだ、及ばないのか」

「だって、これまでと同じじゃん。ツクルも何もしてこないし……」

「ふっ、これも策の一つ。全ては『生者』が勝利するためのな」

「へー……なら、見せてもらうよ」

 その瞬間、『闘仙』さんがこの場から消え去る。
 残ったのは何かをしたらしく腕を横に払う【仙王】の姿のみ。

 嗚呼、仕方がないのか。


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