虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

仙王 その04



 それから、かなり時間が経っただろう。
 留守にします、と再度ログインする時間を推定ではあるがメモしておいた書き置きを残してから、ログアウトをしていったん仕事に向かった。
 さすがにダンジョンに行って穴を掘って登山して、と忙しかったために待っているだけの余裕が無かったのだ。
 なのでそうしてメモと詫びの人参だけ供えて置き、一度EHOの世界から抜け出した。

 仕事を終え、拓真や家族との情報交換を終えた後に再びログインする。

「……あれ? 待っていてくれたのですか」

「はい! ですからお留守番代として、ぜひあの人参様を!」

「いえ、頼んでませんのでそれは……仕方ないですね、人参ですよ」

「あ、ありがとうございますです! 一度食べたら止まらない、とはこのことですね!」

「ハハッ、喜んでいただけて何よりですよ」

 本当は渡す気は無かったが、悲しげに垂れるウサ耳には敵わなかった。
 大人しく人参を渡すと、ウサ耳は歓喜に踊り真っ直ぐに立ち上がってくれたので、俺としても満足である。

 ポリポリと人参を噛み締めるように食べるウサ耳少女、もう少し時間が掛かりそうだ。



 食べ終わり、ゆらゆらと耳を揺らす少女に尋ねる。

「それで、どうなったのですか?」

「ああ、はい。残念ながら、『闘仙』様は謹慎処分中でしたので、お会いできませんでした。終わるのは一週間後、それまでは面会も謝絶のようです」

「……どうしようか」

「ですので事情を説明したところ、なぜかあの【仙王】様が、貴方にお会いすると言うことになりました」

「…………なぜ?」

「さぁ、なぜでしょうか」

 こういうとき、当然だが嫌な予感と言うか面倒事に巻き込まれると言うか……正直、もう帰りたくなってきた。
 しかし、新しい街に訪れて観光をするという偉大な目的もあるし……やるしかないか。

「分かりました、【仙王】様に会うことにしましょう。何か、服装に関する問題などはありますか?」

「いえ、お客様は別の場所からやって来た旅人なのでしょう。街の者ならともかく、強制することはありません。最低限の礼儀は、当然してもらいますがね」

「もちろんです、異境の地に赴いたのはこちらの都合。王様が会ってくれるのならば、私も最大級の礼節をしましょう」

 俺の最大限は、たかが知れてるからな。

「それでは、参りましょうか。私たちの住む国――『仙郷』へ!」

「はい、よろしくお願いします」

 そうして俺はウサ耳少女の案内の元、ようやく街の中に向かうことになった。
 はたして、街はどんな感じで【仙王】とはどういった存在なのだろうか。

 ……面倒事だけは、確実だけどな。


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