虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

仙王 その02



 説明のしようが無かった。
 彼女は彼女なりに職務を全うしているだけであり、何も悪くはない。
 ――ただ、タイミングと来訪者が悪かっただけなのだ。
 タイミングはちょうど、『闘仙』が上司に拘束されているということ。
 来訪者に関しては……うん、特に言う必要もないか。

「どうして遠い目で空を見ているんですか。大人しくお縄に付いてください」

「ふぇーん、どうしたらいいんだよー」

 ウサ耳少女――まあ、少女と言っても中学生ぐらいの背丈だが――に捕まる絵面は、さすがに子供たちに顔向けできなくなってしまいそうだ。
 前にも似たような展開が合った気もするんだが、俺って侵入者に間違えられやすい体質なのかな?

「さぁ、ゆっくりと手を上げて膝を着け――そうはさせません!」

「グハッ!」

 どこかで見たアニメのように、そのままクラウチングスタートで逃げようとしたが、即座に見抜かれて縄を投げられる。
 どこから縄なんて……と思ったが、何やらモクモクとした雲のような不思議な材質でできていた。
 仙人が居る場所だし、雲とか霞とかなんだろうか。

「ふっふっふ、雲縄から逃れられると思わないでください……って、あれー?」

「へー、『ウンジョウ』って言うのか。雲の縄で雲縄かな? 中々解き辛い縄だったけれど……私にかかれば余裕ですね」

「そんなっ! 結界を破れるスパイは、これほどまでに実力を持っているのですか!」

 自由になった体を解していると、その様子にウサ耳少女はショックを受けていた。
 そして、そんな少女の姿に若干の精神的ダメージが俺に入る。

 ……いえ、実力なんてありませんから。
 というより、解いていませんよ。

 毎度お馴染みの死に戻り、ちょんと自傷で死んだらリセット――はい、脱出。
 肉体が再構成される際に、縄は邪魔なものとして排除された。
 本物の縄であれば足元に落ちるのだが、彼女の能力か何かで生成されたと思われる縄はそのまま消滅した。
 捕縛対象がいなくなったので、役目を果たして消えたのだろう。

「……さて、君は私を捕まえられない。それは分かっただろう? だからせめて、一度その『闘仙』さんにアポを取ってくれないだろうか。それで、この問題も解決すr――」

「ううん、ここで私が諦めたら誰がこの街を守るの? ……いっぱいいるけど。例え私が負けようと、第二第三の警邏隊が……」

「いや、だからその、アポを取って――」

「ええい勝負です! 街に行きたければ、この私を倒してからにしてください!」

「だから、話を聞けと言っとるだろうが!」

 駄目だ、ウサ耳少女はカッコイイセリフを言う自分に酔っている。
 ハァ……、またこのパターンになるのか。


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