虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―
決意
ヘノプスの瞳は黒く濁り、完全に事切れたことを示す。
死亡レーダーにも反応しなくなったので、それは俺にも分かっていた。
どっかりと地面に腰を下ろした古代人たちの間を通り、代表の元へ向かう。
「──それじゃあ、死体は貰いますね」
「ああ、それがお前との約束だ。これからお前がそれをどうしようと、我らは一切気にすることはない」
ありがとうございます、と言ってから会話に戻る。
「まったく、代表も大胆なことをやりましたね。これが貴方なりの覚悟、というヤツですか?」
「そうだ、タビビトにも迷惑をかけたな。俺はこれまでの代表たちの努力を継ぎたいがために、こうした愚行を行ったんだ」
「ですが――みんな納得していることですよね? そうですよね!」
そう、守護獣を殺さずとも生き残る案は、既に俺が提示してあったのだ。
俺はその案を確実でないと告げると、代表が守護獣を討伐することを強く願った。
そのときはどうして、と思ったが……守護獣戦を終えた今ならばなんとなく分かる。
それでもだ、共に戦った精鋭部隊たちの行動も愚行と評するのは駄目だと思う。
まあ、独り善がりだと困るし、念のため後ろを振り返っておく。
「そうだぜ、代表」「アンタの思い、さっきまでの戦いでしっかり見てたぞ」「そうよそうよ、みんなやりたくてやってたんだから、愚行なんて言わないでよ」「むしろ、俺たちであの守護獣を倒したことを誇りに思っていこうぜ!」
「おまえたち……」
うん、よかった。
ここで全員が後ろを向いて見て見ぬ振りをする、なんて展開だったら俺は傷心のあまり引き籠るところだったぞ。
さて、話を戻そう。
既に死体は回収し、代表が何も存在しない湖の中心で魔核を掲げていた。
何やらブツブツと唱え、こちらにも聞こえる大きな声で叫ぶ。
「我は全ての試練を超えし者。我は永遠の安息を拒み、焦燥の世に旅経つ者。大いなる罪の証を今この場に示し、庇護を断ちて楽園を抜けることを誓おう――“楽園追放”!」
どこからか、軋む音が聞こえ始める。
空が悲鳴を上げるように、高々しくそれは鳴り響いていく。
代表が水辺から上がる頃には、その軋みも止んでいた。
「魔核を受け取った瞬間、この呪文が脳裏に浮かんだ。これで俺たちは、正式にこの場所から脱出することができるようになる」
「そうなんですか、私の方法では長期間できなかったので良かったです」
「ああ、世話になったな。一度砦に戻って支度をした後、再びこの地に戻ろう」
「…………代表、一つだけ確認しておいてもいいでしょうか?」
「なんだ?」
「代表は、この先どうするのですか? 当てのない外の世界で――それに、この先って水没してますから、脱出するの大変ですよ。たぶん、魔法も持ちませんし」
「…………タビビト、ならお前はどうやってここに来た」
なんだろう、このタイミングで物凄い眼力で睨み付けてくるんだけど。
俺、なんか不味いことって……あっ。
「だ、代表。もう一つだけ――」
「くだらない質問だったら、例えタビビトでも容赦はしないぞ」
「『死の灰』はいつ来ますか?」
「──明日、夜明けと共に山が噴火する」
歯を食いしばって、そう教えてくれた。
俺はその言葉を聞くと、代表に告げる。
「仕方ありません、私の策を実行することにしましょう。――箱庭を乗っ取り、この地を救うことにします」
箱庭を、神様から奪い取ってみようか。
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