虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

貢献イベント その05



 何度も何度も殺したはずだった。
 首を折り、心臓を抉り、四肢を落とし、血液を抜き、電撃を浴びせ、瘴気で包み、窒息させ……殺す側が飽きる程である。

 ――しかし、ツクルは再び動き出す。

「ネタの引き出しが多いようで。お次は、一体どのような殺し方になるのでしょう――」

「ええい、いい加減にしろ! 確かに我は、お前を殺したはずだ! なのに……なのにお前は、何故生きている!!」

「……いえいえ、死んでますよ。ただ、生と死の境界が不安定なだけです。『生者』というのも大変でしてね。どれだけ願おうと、神は答えてくれないのです」

(神……『聖者』の崇める神と言えばやはり聖神か。だが、『聖者』に答えないというのが鍵であろう)

「答えろ。お前の崇める神の名を」

「……そうですね。八百万とでも言っておきましょうか。特出した物はありませんが、どのようなことであれ、八百万の神は日々の生活に関わっています」

(ふむ、『ヤオヨロズ』か……聞いたことの無い名前だ。我が封印されている間に、斯様な神が誕生していたのか。権能は……全て。つまり全能の神なのか。なるほど、聖神よりも位が高いが故、聖人でも意思を読み取れないということか)

 全能神、それはかつて(……そして今も)存在しない神だ。
 神には個性があり、だからこそ多様性を有している。
 しかし、全能とは全てを有していることを意味し、全てを持つことは矛盾を持つことと同意になってしまうのだ。

 神は、人々の信仰から時折形を変えることがある。
 神が悪魔に歪むように、希われた英霊が神へと昇華するように。

 ソレもまた、そうした人の願いが全能神の矛盾を打ち破り誕生させたと考えた。

 ――そして、その神がツクル攻略のヒントになるとも。



「……もう、止めにしませんか?」

「まだだ! まだ、終わるわけにはいかないのだ!」

(数えるのが嫌になる程殺したはずだ! 可能な限り、殺す算段を付けたはずだ! なのに、どうして……)

 ソレはあれから、様々な観点からツクルのことを考えて――殺した。
 死角から殺し、油断させて殺し、心を折って殺し、魂を砕いて殺した……殺したのだ。

 それでもツクルは動く――まるで、生まれ変わったかのように。


 ソレもさすがに警鐘を鳴らした。

(違う、こいつは『聖者』ではない。本人が嘘を吐くような気配でも無かったし、恐らく別の字……そうか、『生者』か!)

 ついにソレは、真実に辿り着く。
 元々、全てはソレが早とちりをしただけであった。
 ならば、そのことを踏まえて考えればツクルに勝てる……そう思っていたのだ。

 しかし、時は既に遅かった。
 もっと早く気付いていれば……ああなることもなかったのだ。

 そして、ツクルは始まりを告げる――。

「いえいえ、これは永遠に終わりません。これは絶対に変わりません。これは完全に定められたことなのです。だって、私は『生者』なのですから」

 その手には筒のような物が握られていた。
 そして、筒をソレに向けて……レバーを勢いよく引く。


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