虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

引っ越し相談



「風兎、この森はこの場所に無ければならないものなのか?」

『……考えたことがないな。だが、それを私に聞いてどうなる』

「あー、俺って一応広い土地を持っているんだけどさ、もしよければそこに希望者を募って住ませようかなって」

『それと森の関係が分からんのだが……まさか、貴様……!』

「うん、ご想像通り――この森ごと持っていこうと思ってな」

 すると、風兎から何度も浴びた暴風にも似たオーラのような物が浴びせられる。
 魔物たちはそれを感じ、すぐさま逃げ出していく……しっかりと食べ物を持ったまま。

『本気で、そう言っているのか?』

「いやー、こうなったのも全部俺の責任みたいだろ? まさか食べ物一つでここまで魔物と仲良くなれるなんて、一体誰が想像できるんだよ。それならそれで、今後アイツらの生き方に責任を持つ必要があるのかなって」

『その考えは、ある意味では正しい。だが、ある意味では間違っている』

「へぇー、というと?」

 一体どんな深刻な話が、と思いきや――。

『それはテイマーの領分だ。未だにジョブにも就かない貴様が……どうした、急にヘコみだして』

「……ああ、俺はジョブに就いていないわけじゃないんだ。ジョブに就けないんだよ」

 ステータスに表示される職業【■■■】。
 一つの職業のLvが上限に達するまで転職できないこのゲームでは、俺には悟りを開いても転職できない運命が与えられたのだ。
 無理矢理転職する方法もあるらしいが……それはまた、別の機会に。

 だが俺の【■■■】はバグっているせいなのか、どうやらジョブに就いていると認識されていないようなんだ。
 ――就いている職業が自称、悲しいな。

「まあ、そのことはどうでもいいか。細かいことは置いておくとして、俺がアイツらと共存することに問題があるのか?」

『……いや、それは無いのだが』

「なら問題ない。森ごと持っていけば、風兎に迷惑が掛かることはないだろ? 今まで通り、この森の守護だか警備だかを、やっていれば良い」

『それは……しかしだな……』

「他にも理由はあるけど――アッチの方を、見てみろよ」

『ん? ……ああ、なるほど。これは、断り辛くなるな』

 俺の指差した場所――そこには、俺たちの会話をずっと聞いていた魔物たち(ほぼ全て)がいた。
 視線は俺と風兎、そして自分が手に持った食べ物を揺れ動いている。
 そう、風兎が断ろうと受け入れようと、俺には心強い魔物たちがいるのだ! ……全員が、俺を殺すだけの力は有してるけどな。

 しかも、普段は鋭い爪でプレイヤーを殺している凶悪な熊(準ボス級だと俺は推定している)ですら、純粋な瞳で風兎を見つめているのだからもう大変。
 ――風兎、もう選択は一つしか無いんじゃないのか?

『……森の者たちだけを行かせるわけにもいかないか。だが、移動を認める代わりに一つ条件がある』

「条件?」

『私を先に、その場所を下見に行かせろ。当然、この地に戻すことだ』

 ……これは、プレゼンテーションでしょうか? またまた、面倒なことを。


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