虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

騎士談



 ツクルの去ったブリタンニア。
 そこにあるとある丘の上で、二人の男女が話し合っていた。

「……それで、私に何のようだ。まだやることがあると言うのに」

「あの場に居ては、貴女の本音が聞けませんから。『騎士王』……いいえ、リウス」

「……『ガウェイン』、その名は捨てた。今の私は『騎士王』であり『アーサー』だ」

「そう、ですか」

『ガウェイン』はそう答える『騎士王』の頑なさに、ため息を吐く。
 元々知らない関係ではない二人なので、昔から変わらないその態度に、苦笑したくなる気分なのだ。

「ツクルさん、あの人は私たちの無理な要求に応えてくれました。本当は最初の魔物だけでも、『超越者』に正式に依頼をして倒していただこうとしていたところを――」

「『生者』は弱いが故に強い、あれ程までに死を纏っていられるのが不思議なくらいだ。
 それに、『超越者』同士の盟約に奴は一切関与していない。今の国に余計な費用を掛けることは無駄だ。無償で働く人材であることは、既に邂逅で確認済みだった」

 ツクルが鏡の魔物を、そしてシュパリュを倒すところまでが『騎士王』の描いたシナリオ通りであった。
 全ての騎士たちにそのことは伝えられておらず、『ガウェイン』が『騎士王』に異議を申し立てようとしたこともまた事実。
 ――しかしこの国には、ツクルに頼まざる負えない理由もあった。

「……彼に出会う前でしたら正気かどうか疑うところでしたが、今なら納得です。
 彼の誠実さでは、貴女のような冷酷な判断はできないようですし」

「全くだぞ。あんな魑魅魍魎の蔓延る場所にいたならば、アイツはきっとこの依頼を受けてはくれなかっただろうな。いや、それに私に難癖を付けていたかも知れない。実に困るところであったな……? どうした『ガウェイン』」

「いえ、戻っていますよ。素の状態に」

「――ッ!?」

 そのことを『ガウェイン』に言われて気付いた『騎士王』は、慌てて元の状態に戻ろうとする……が、『ガウェイン』の前で取り繕ろうとも意味がないと諦め、そのまま会話を続けていく。

「……ハァ。グルフ、あまり私を怒らせるなよ。この聖なる剣で斬り裂いてやる」

「それが貴女様の選択であれば、私はどのようなものであろうと受け入れます」

「……全く、嫌な騎士だ」

「お褒め頂き、光栄です」

 彼らの間には、今でも絆が残っている。
 例え運命がそれを割こうとしても、既に過ぎた過去までは塗り替えることはできない。

 いつもはひた隠しにしているその思いを、今はすっと曝け出していた。

「それで、『生者』……いやツクルの話だったな。私にどうしてほしかったのだ? 言わなければ、分からないこともあるんだぞ?」

「分かっているクセに、貴女は回りくどいことが好きですね。――これから先、この国は彼とどう付き合っていくのですか?」

「ああ、それか。それなら――」


 これから『騎士王』が語るのは、ツクルの関わる面倒事の未来予想。
 それがいつ起きるかは……神にも分からないことである。


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