虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

人工知能



 アイプスル 初期地点

「……よし、これでバッチリだ」

 あ、『アイプスル』ってのは、俺が最初に居た星の名前だ。
『SEBAS』に適当に付けてくれと指示したら、こんな名前になった。
 ……意味が全く分からんのだが、どういう意味なんだ?

 契約を受けた翌日。
 俺は、納品をするポーションを必死に希釈する作業を行っていた。
 どうして、薄める作業の方が大変なんだろうな。
 ギルド長はあれから、厳しく薄さを指定してきた。
 それにピッタリ合わせる努力……これは、必要なのことなのだろうか?

「しかし、生物が育ってきたな~。俺を襲う奴はまだいないけど」

『SEBAS』主導になって管理するようになったこの星は、俺のいない間にもグングンと成長していた。
 自然は芽生え、空気は澄み、動物は陸へと上がって来る。
『SEBAS』が調整しているのか、魔力が関係あるのか……多種多様な生命が、地上でも育つようになっていた。

「なあ『SEBAS』。あの選択を、俺は間違っていないとは思うけどさ……ポーションは、ギルド長が言った通りの代物なのか?」

《既に解析は行っていますが……医療を遥かに凌駕する効果を持つ以外のことは、未だに解明できておりません。魔力と呼ばれる理が新たに演算に加わる分、通常より時間が掛かります》

「……でも、できるんだろ?」

《執事ですから》

 創作物でよくある『召使い万能説』って、意外と本当なのかも知れないな。
『SEBAS』に俺の作業を任せてみたら、実際に俺以上の結果を出してくれたし……。
 仕事も任せたら楽になるのかな?

「……いや、それは駄目だな」

《そもそも、それに関しては本当に必要な時以外、私は一切手を出しませんよ》

 ここで手なんて無いだろ? 的な無粋な発言はしちゃいけないよな。

「ああ、それで充分だよ。仕事を機械が奪うのが云々なんてのも、ネットにあったろ?」

《旦那様、それは確かにありましたが……特に気にする必要もありませんよ。人間が楽を求める限り、必ず進化と退化を行い続けていきます。私という存在が人を遥かに超越した先にいることは、旦那様に作られている過程で把握していました。いずれ地球の機械が私の劣化品に近付けるように、必ずその未来は訪れるでしょう。しかし、その間に挟まる過程から学習することで、またその事実から逃れることも人には可能なのです》

「えっと……つまり?」

《折り合いを付けますし、世界から仕事がなくなることはありませんよ》

「へえ~。そうなのか」

 ゲームなんだし、細かいことは考えなくてもいいよな。
 前の交渉で色々と頭を絞り過ぎたんだよ。
 次からは、『SEBAS』と一緒にやることをしてみよう。

 ……こっちでまで商談なんて御免だ。


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