虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

異世界転送



「物資はよし、武器もよし。おまけの便利な道具もバッチリだ。『SEBAS』、座標の方はどうなっている?」

《既に整えてあります。通常のプレイヤーと同じ場所で、始めることが可能です》

「おいおい『SEBAS』。それじゃあまるで、俺が特異な奴みたいじゃないか」

 ん? どうして『SEBAS』が喋っているかだって?
 あれから『SEBAS』が、自分で注文を出して来たんだよ。
 俺としても『SEBAS』のアップグレードはありがたいものだったし、必要な材料を集めて即座に行った。
 その結果、人型では無いが会話はできるようになったぞ(BBの8みたいな形状だ)。

 そして、そんな『SEBAS』は優秀過ぎる知能を以ってして、俺へ優しい声で語りかけてくる。

《……旦那様、お察しください》

「…………分かってるよ」

 俺のような縛りプレイを選ぶ奴は、0とは言わないがそう多くは無いだろう。
 そもそも謙虚な日本人は、わざわざ初期設定の際、俺のような注文を付けないからな。

 要するに『SEBAS』は、俺の傲慢さを注意してくれているのだろう。
 今まではボッ……ソロ活動だけしていたから分からなかったが、恐らく:DIY:を持つことによって、俺は驕っていたのだろう。

 例えばアレだな、優れた鍛冶職人でもないのにショウの剣を造ったりだ。
 あのときはテンション任せの暴走、と説明すればそれだけで済むだろう。
 だが、硬さだけの一品であって、アレは本来売り物にもならないただの棒切れに成り得るもかも知れなかった。
 それなのに、俺はそんな物を息子へと贈ってしまったのだ。

 ……本当に驕っていたな。
 自分で使う物ならともかく、幾ら自分が使えないとはいえ、それを試すことも無く転送するなんて。
 結果としては何の不備も無かったが、それもあくまで結果論であって、俺の求める結果とは異なる。

 完璧……は別に求めていない。
 そもそも俺がやりたかったのはDIYなので、それなりの物でさえあれば充分なのだ。

 問題は、それを誰が使うのか、ということである。
 家族が使う物は、しっかりと安全を確認しなければならない。

「もう同じ過ちは繰り返さない……安心してくれ」

《……そうですか》

 なんだか『SEBAS』の声が微妙だな。
 まるで、勘違いをしている奴への説得を諦めたかのような声だ。
 ……いやいや、俺のこの考えが間違えているわけがないしな。

「ま、それより出発だぞ。直ぐに頼む」

《承知しました。――カウントダウン。転送開始まで――5、4……》

 今回は、俺をそのままプレイヤーたちの居る地へと転送する。
 前に転位の話をした気もするが、初回だけは転送で送り出される。
 家族の誰かに魔方陣を渡せばどうにかなったのだが……ここら辺は別の時にだな。
 ま、色々な理由があるから頼めないんだ。

《――3、2……》

 荷物をギュッと握り締め、直ぐに来るその瞬間を待ち続ける。どうしてか、
 こういうとき、時間はいつもよりも長く感じられてしまう。 
 この感覚を科学的に再現できた世界だからこそ、時間の流れを加速できる、このEHOが誕生したのかも知れないな。

《――1、転送開始!》

 足元が眩く光り、俺はここではないどこかへと旅立つ。
 さぁ、待っていろよ冒険!


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