虚弱生産士は今日も死ぬ ―小さな望みは世界を救いました―

山田 武

海再生プロジェクト 後篇



「うーみーはー広いーな、おっきいぃなー」

 ログインした後に海を眺めた俺は、ついそう口遊くちずさんでしまった。
 それ程までに広大な水平線が、俺を待っていたのだ。

 時間がどれだけ経ったか、それは良く分からない。
 それでも、かなりの時間が過ぎたのだろうと、だけ思った。

「……いやいや、なんでもう生き物が生まれてるの?」

 やはり、魔力を流し込んだのが間違いだったのだろうか。
 光合成という段階をすっ飛ばして、もう酸素を生み出す植物や微生物が誕生している。
 これが、魔法の存在する世界での生命誕生の歴史なのだろうか。
 録画された映像を高速で飛ばしながら確認してみると、魔力から解明できていない不思議成分を抽出し、その生き物が望む姿へと進化させていると思われるな。

「ま、普通の進化も組み込まないとな」

 パソコンから再びプログラムを起動させ、天候現象装置から擬似太陽を生成する。
 これは光エネルギーを放つために作製した物で、光合成を行えるようにできるのだ。

 ボシュンッと装置から小さな光の球が海の中心当たりの空へと昇っていき、融合する。
 眩い光が黒き世界を照らし、真っ黒な海の底を暴き出す。
 ……まだ見えていないけど、いずれはそこに不気味な深海生物でも誕生するのか?

 太陽は少しずつ空へと舞い上がり、最後には本物の太陽を見た時と類似した空が、俺の上空には広がった。
 まあ、それでも上は黒いままなんだがな。

 この擬似太陽、解除しない限りは半永久的にエネルギーを生み出してくれる化物じみた代物だ。
 しかも、時間に合わせて明るさが変動するし、夜の時間帯は自動的にOFFになってエネルギーをチャージしてくれる。
 いや、実に便利だろ。
 余分なエネルギーは魔石として輩出してくれるので、エネルギーの暴走などもありえない……『魔道具適性(笑)』には作成不可能と情報が記されていたのだが、:DIY:の手によってその技術が完成した。
 さすが、俺のこのゲームにおける楽しさの大半を削って、生まれた代物だな。


 太陽光が海へと降り注ぐので、それを吸収して利用しようとする生物がいずれは出現するだろう。
 そうすれば、魔力という成分が混ざっただけのファンタジー世界が誕生する。
 ……ん? 俺って、原始時代から生産を行わないといけないの?
 眼鏡の少年が行った擬似的な地球誕生ならば、確か原住民が誕生してたよな……。

 嗚呼、面倒になってきたな。
 さっきまでは海のことしか考えていなかったから楽だったが、この先のことを考えるとな~。

「……うん、しばらくは忘れておこう」

 海以外にもやることは沢山だ。
 地上の方でも色々とやらないとな。

 管理は暇潰しで作ったパソコンのAIに任せることにして、俺はログアウトで現実へと帰還する。


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