私と彼とそして。

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第二話

私の頭を軽くポンッと叩かれて、ふと父の事を思い出した。私の父はよく何気なく私の頭を撫でてくれた。

元々、父と母と私の3人で暮らしていた。昔の父は働きもせず毎日酒に溺れ暴力こそ振るわなかったもののロクな父親ではなかった。そんな父に愛想を尽かした母は私が小学校2年生の時、家を出ていった。
後々から聞かされたが、親戚の間では父では私を育てきれないだろうと、どこの家に私を預けるか、ということまで決まっていたらしい。
しかし、母が出ていったことで改心したのであろうか。それからというもの父は、まるで人が変わったように酒をやめ一生懸命働いて男手一つで私を育て上げてくれた。
私が悪いことをした時はしっかり叱ってくれたし、頑張った時はしっかり褒めてくれた。
授業参観にも仕事が忙しくても、ほかはお母さんばかりの中でも来てくれた。大きな体を少し申し訳なさそうに小さくして見てくれていた姿は今でもすぐに目に浮かぶくらいだ。

かつての父を思うと母を責めることもできなかったが、一生懸命に働いてくれている今の父を思うと感謝の言葉しかなかった。

決して裕福ではなかったが、父との二人暮らしは何も不満はなくとても楽しかった。


しかし三ヶ月前、突然父は帰らぬ人となった。


祖父母も既に他界しており、身寄りがないと思われていたが、気持ちの整理がつかないままだった私を引き取るという人が現れた。
この人以前どこかで見たことがある...。

そう。母だった。父と母が離婚してからというもの、私は母と会ったことは一切なかったからすぐには気づけなかったのだ。そして、その母の隣には見知らぬ男性がいた。母は再婚していた。
「一緒に暮らそう」
そう言われ引き取ってもらうことにしたが、義父は言うまでもなく、母ですら会うのはおよそ八年ぶりで何を話せばいいかわからない。
彼らの車で移動した時間はなんとも言えない居心地の悪さだった。

そしておまけに、彼らの家に着くと20代半ば程の青年がソファに腰掛けていた。
「紺にはまだ話してなかったけど、私たちには家族がもう一人いてね。紹介するわ」
「はじめまして、紺ちゃん。優哉です。」
手を差し出しながら微笑んだ彼からはなんとも言えない恐怖に似た印象を受けた。
「は、はじめまして...」
だが、私は不思議と彼の手を握り返していた。

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