もののけ庵〜魍魎の廓〜

尊(みこと)

花街を追われた遊女達





    
    止まない手招きと呻き声にも似た客引きの声に、尊禍は大声だが珍しく優しい声で語りかけた。

尊禍『みんな!いつもの俺たちだよ、妖狐の尊禍と化け猫の道世だ!土産物を持ってきた、出て来いよ。』

 すると客引きの声はピタリと止み、骨と皮だけの手も小屋の中に引っ込んだ。カタンカタンと小屋が開く音がして、手と同様にカサカサの肌、ボサボサの髪を振り乱した粗末な着物の女達が這うように出て来た。
生気の無かった瞳に、いつの間にか妖の姿に戻っている二人を見て、鉄砲女郎達は仏を崇めるように一心不乱に道世と尊禍に手を合わせ、ほとんど皆が涙を流していた。

女郎1『ああ..,こんな場所にまたいらして下さったのですか...』
道世『当たり前だよ!しかも今回は少し遅くなってわるかったねぇ...じゃあ、いつものように並んでくれるかい?』
 素直に一列に並ぶ女達はまるで幽霊のように覇気がない。仕方がないのだ、梅毒は恐ろしい病である。

尊禍『すまんな、みんな。敷き布団と掛け布団は一人一式は無理だが、物自体は暖かいし大きい。二人で寝てくれ。板敷に雑魚寝して薄い布切れ一枚で寝るよりはずっと快適だろう。あと、べっこう飴と金平糖の入った巾着は一人ひとつずつあるよ。饅頭とぼたもち、おはぎ、餅は一人三つずつだ。着物も一人一枚、帯もな。あと簪は一人二本、櫛は一人ひとつずつ。』

 尊禍は女達に指示を飛ばしながら、道世は優しい笑顔でそれぞれの物品を一人一人に渡していった。皆の手に物品が行き渡ったのを確認して、二人は満足げにほほえんだ。
客に梅毒を感染させられた、鉄砲女郎との異名まで無情にも着せられ、理不尽な軽蔑をされる遊女達は尊禍と道世にもらった品々を抱きかかえ、咽び泣きながら感謝で頭を地面に擦り付けた。

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