もののけ庵〜魍魎の廓〜

尊(みこと)

実態







    「危なかったな...」尊禍はふぅと溜息をついて道世に話しかけた。
道世「まったく本当だよ...蛇乃女様のおかげで荷物も無事だけど...あんたどう思うよ?」
 道世の問い掛けにポカンとして尊禍は問い掛けた。

尊禍「どう思うって...新入りの見張り役どもで、ピリピリしてる上に奴らの上役の酒呑さんが俺達について話してなかったってだけの話じゃねえの?」
 心底呆れたように道世はかぶりを振る。
道世「馬鹿の相手はこれだから面倒なのさ...見張り役達が新入りって事も、酒呑さんが伝達してないって事もなんで蛇乃女様は知ってたんだい!?偶然歩いてたら偶然あたしらが揉めてるの見たから止めたっていうのかい!?」

 爽やかな若武者の姿で仁王立ちし、尊禍をビシッと指差す。
道世「つまり!あたしらが大門くぐって施しに行く時は蛇乃女様は毎回大門までついてきてくれた」
 一世一代の謎解きでもしたかのように得意顔を浮かべる道世だった。
尊禍「ん、あぁ前から知ってる。お前より鼻は効くんだよ、毎回分かってたよ。」
 唖然とする道世を横目に尊禍は言った。
「普段の花街は物騒だろう、物盗りや辻斬りも少なくはないわな。お前だけならともかく、俺は堪忍袋の短いタチだからなぁ...心配だったんじゃねぇの?」
 
 しばらく霧雨の中を歩いているとポロポロの小屋が所狭しと並んでいる場所に着いた。近寄ると異様な臭いと「いい男だねぇ、兄さん達ぃ...わちきを買っておくれよぉ」辺りから男の気配を感じた女達が、小屋の窓から突き出したカサカサで痩せ細った手で手招きする。
尊禍「この世の地獄の一丁目...鉄砲女郎(梅毒等が原因で店を追い出された女達。格安だが、梅毒感染により当たれば命がない事から鉄砲女郎と通称がついた)たちが身を寄り添いあい、客を奪い合う鉄砲女郎達の家兼ねる客と床入りする場所についたな」
 毎度の事ながら、道世は多少顔を伏せ気味だった。
道世「いつもの感じかい?」
 尊禍は黙って頷いた。

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