もののけ庵〜魍魎の廓〜

尊(みこと)

悲劇の遊女たち





   蛇乃女から事実を聞かされた上、女ものとはいえ荷物も自分達のものを背負っている道世と尊禍を、門番達はこうべを垂れて大門の外へと送り出した。蛇乃女は2人の背をしばらく見つめていたが、穏やかな表情で大門の見張り達に向き直った。
「あなたたち」

  静かだが凛とした声に、新入りの見張り役の男達は思わずビクリと肩を跳ねさせた。

蛇乃女「この花街には色んな存在が渦巻いているのです。女を買う男と、男に買われる女だけではないのです。貴方がたが疑ったように、本物の物盗りだって辻斬りだっています。先ほどの者たちや私のように妖怪や魍魎と呼ばれる存在も。そして...」
 
蛇乃女は悲しそうに首をかすかに振りながら言った。
「病気や折檻で格安の値段を自分につけてでも生きなければならない、この花街を追われた女達がいた事も...。」

  彼女は少しばかり強くなった雨の中、もう見えなくなった2人を案ずるようにもう一度大門の外に目を向けた。

蛇乃女「酒呑(しゅてん)に新入りの躾ぐらいちゃんとしなさい、じゃなきゃ貴方は私の声が少しでも遅ければ2人の新入りの命をギリギリ一歩で失いかけたのだと。蛇乃女が言っていたとお伝えなさい。文句があれば、もののけ庵に来い、ともね。」

  少しでも遅かったら喉笛を引き千切られていた...それが自分達の事だとさとり、見張り役たちは真っ青になって何度も頷いた。

 それを見届けたあと、蛇乃女は自分の廓であるもののけ庵に歩を進めた。真っ白い髪、真っ白い着物、真っ白い傘は霧雨の中に吸い込まれるようにたちまち姿が見えなくなった。

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