もののけ庵〜魍魎の廓〜
もののけ達の優しさ
尊禍と道世は梅雨独特のむわっとした湿気と霧雨の中、2人共男の姿に化けてあまり言葉を交わさぬまま淡々と歩く。歩きながらも屋台の飴や砂糖菓子、ぼた餅や饅頭を大量に買い込んでいた。
自分らがもう着なくなった美しい着物や帯、簪や櫛、鏡に化粧品、布団まで大きな風呂敷に包んで、いつもと違う祭の熱気の中、大荷物を背負っているくせにヒラヒラと浮かれた人間達の間を縫うように2人は歩いた。
どうも向かう先は大門らしい。
道世「ねぇ、この大荷物とあんたの銀髪、いくらなんでも目立っちゃうよ。」
尊禍「なぁに、そのために男になってるんだ。」
そう、悲しいかなこの大門を好きに出入りする事は遊女には出来ない。
道世「まぁ、ね...。けれどこんなに大きな風呂敷包み背負っておいて、物盗りか何かだと声かけられちまったら面倒にも程があるねぇ。」
そんな会話をボソボソ交わしながらも、しれっとした顔で大門をくぐろうとした時、「そこの若僧2人、待てい!」監視役の怒号が飛んだ。3人の監視役はズンズンとこちらへ向かって来て吠えるように言った。
「綺麗な若旦那2人がこんな風呂敷抱えて、傘もささずに歩いてるとは酔狂なものだなぁ?」
「花街の秩序のため、その背中の荷物、改めさせてもらうぞ!」
見張り役の男達は2人から無理矢理背中の荷物を取り上げ、風呂敷をほどいて中身を調べた。豪華絢爛な着物や帯、簪などが大量に出るわ出るわ。男達は下卑た顔でニタリと笑った。
「こりゃあどいつもこいつも高級な遊女の代物じゃねぇか。兄ちゃん達が使うもんじゃねぇなぁ、さて...何処で手に入れたか白状してもらおうか。」
道世も尊禍も、同時に格闘時の臨戦態勢をとった。いつもならばただの見張り役など相手にせず、事情を知っている上の者を出すように言うのだが、雨降りの祭では監視役はいつも以上にピリピリしていて、話し合いが通じる様子が無かったのだ。
隙のない構えと一瞬の油断も許さぬような応戦準備の2人を見て、監視役たちはひるんだが自らを奮い立たせるために乾いた笑い声を出した。
「なんだぁ?盗みがバレたから戦おうってんのかぁ?分かりやすいなあ、お前ら。」
そんな安い挑発には乗らず、尊禍が争いを仕掛ける合図となる、ケェエーン!!という鬨の声を上げた。
「えっ...?」
監視役は人間だ、2人の物の怪の動きに反応するどころか、目で追う事すら出来ない。道世と尊禍の手が目にも止まらぬ早さで監視員の首に届く一寸前、凛とした声が響き渡った。
「おやめなさい、2人共!」
まるで雷にでも打たれたかのように2人は動きを止めた。
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コメント
尊(みこと)
ありがとうございます!駄文ですが、なるべく妖怪達と遊郭というどちらも浮世離れした話に構成できるようがんばります!
ノベルバユーザー166348
最近このお話を知りましたが一番新しいお話まで一気に読んでしまいました!元々妖怪や物の怪や異世界等のお話が大好きなので登場人物や世界観とか凄く好きなので続きが気になります!