Σ:エンブレム 他人恋愛症候群

一姫結菜

エドワード・ルイスと 下世話な勇者候補

 私の名前はエドワード・ルイス。ルイス家の四男であり、末の弟である。

 ルイス家は建国当時からアルマーズ王家に仕えてきた裕所正しき騎士の家系であり数多くの優秀な騎士を輩出してきた。
 ただ、私自身はと言うと箸にも棒にもかからない完全な落ちこぼれだ。
騎士なのにいくら努力しようと剣のセンスはからっきし。剣の訓練を5歳の時から受けているのだが、剣を習い始めて1年目の訓練兵に負けるほどに弱い。体も生まれつき、貧弱な細身で無理していくら食べようと太らない。
 おかげで、他の騎士からは馬鹿にされ、結果としてルイス家だからとおこぼれで現在の平和な国には無用の産物である姫様の護衛と言う立場に抜擢されることとなった。
 姫レイ・アズマール様には兄弟がおらず、城内の同年代は私だけとあって子供の頃から度々、一緒に遊んでいた。いや、遊ばせてもらっていた。

 姫様は見ての通り天使のように美しい方だ。しかも、それは外見だけの話ではない。昔から兄弟に虐められているところを何度も助けていただいた。それに私のようなものに対して、優しく接してくれる内面も天使のようなお方だ。

 多分、恐れながらも出会って数日経つ頃には完全に恋に落ちていた。
 だが、相手は一国の姫。当然、思いも告げるなんて恐れ多い行為は出来ない。だから、必死に悟られないように13年以上生きてきた。これからも姫様への想いを秘めて生きていくつもりだった。
 あの瞬間までは。
 今から3時間前に召喚された勇者ゼロによって私の姫様への想いを大胆にも暴露されてしまったのだ。そもそも、なんで召喚されたばっかりの男が私の13年の想いを知っていたのか。  
尋ねてみると、

「お前、本当に馬鹿だな。あの場でお姫さん馬鹿みたいにじっと眺めていたのはお前だけだぞ。中学生だってもっと気を付けんぞ。驚異的なレベルで思考が、単純なんだよな。それに途中、ヤリチン勇者のこと斬ろうとしたろ。気持ちも分からなくはないが、騎士ならそこは堪えろよ。明らかに心の鍛錬不足だ。素直なところは嫌いじゃないけどな。頭はクールに、身体はホットにだよ」

「な…………騎士たる私がそんな…………ことをするわけ…………ありました」

 いくら見栄を張ろうとも嘘だけはつけない。
 あの瞬間、無意識だと主張しようとも確かに剣に手をかけていた。

「それにさ。お前さんは隠しているつもりかもしれないけど、周りの連中の反応から見ても、皆、知っているぽかったぞ。ことの張本人の姫さんもあれは知っている感じだな。そこのところは言わなくても分かるだろ。はい。ご愁傷さま」

 確かに姫様は勘が鋭い部分はある。気が付いていても全くおかしくはない。

「いや、そんなことない………と思う」

「本当に分かり易い性格してんな。安心しろ。この天才作家が純情少年と高嶺の花を結んでやるよ。フラグ管理なら僕に任せろ。ある意味ではそれが本職だ」

 異世界の言葉か知らない単語が出てきて意味不明だったが、ゼロは自信満々なのは分かった。私にとっては不吉で仕方ない。お願いだから余計なことはしないで欲しい。

「ところで、忘れているかもしれないがゼロの仕事は私の恋のキューピットではなく大悪魔ベリアルの討伐なのだが戦闘経験とかあるのか?」

「剣スゲェ格好いい」とか言って王様から受け取った聖剣のレプリカを子供のように眺めているゼロに聞いてみた。一応、才能がなくとも騎士の端くれの私が見立てるに剣すら触った経験がなさそうだ。

「間違っているぞ、純情少年。僕のメインはあくまで恋のキューピット。それが趣味であり、仕事だからな。そのついでに、聖剣に選ばれてベリアルを倒すような感じだ。グリコのおまけ感満載だな。そもそも勇者とか笑えるわ」

「そのグリコとか知らないが、戦闘経験とかあるのか? 一応、指導官としてゼロを一人前の勇者に育て上げないといけないんだから知っておきたいんだが」

「せっかちな奴だな。いいか? 恋と言うのは釣りと一緒。焦った方が負けなんだぜ。ところで、僕たちは今、どこに向かっているんだ? 残念ながら、僕は初見なので分からないんだけど」

 適当に歩いているとふと袋小路に入ってしまった。そこでゼロがようやく無駄に歩いていたことに気が付いたらしい。

 私としたことが目の前のやけに痛いところを突いてくる偉そうな少年が数時間前にこの世界に来たことをすっかり忘れていた。

 小さい頃から度々、城内には来ている私ですら迷子になるほどの広さ。昔の人がわざと構造をかなり把握しにくくし、城内に攻め込まれたときに敵を混乱させたり、ピンチの時にいくつもある複雑な隠し通路を通して王族を外に逃がしたりしたらしい。

 私もついつい会話の内容が内容だったのですっかり道順のことを忘れていた。要するに、良い歳して、迷子になってしまったということだ。

「ゼロの実力を確認して、修行の為にも訓練場に行こうと思ったのですが。すっかり会話に夢中で……」

「…………もしかして、腰に剣はぶら下げているが飾りで剣を使ったことないのか? これは僕のイメージが騎士だから剣くらい使えるだろうと思ったんだが? 剣は飾りで槍でも持っているのか」

 珍しく私に対して、遠慮した態度で来た。内容はさておきだ。

「騎士と名乗るからには皆が剣術を習います。あまり強くないですが、私も随分と昔から剣術を習っていますよ。それにこれは真剣ですよ」

 腰にある剣を取り出して刃を見せ、しまった。

「武道家はすれ違っただけで相手のレベルが分かると言って話があるけど強い人限定の話だったんだな。弱いなら、仕方ない。攻める方が悪い」

「さっきから聞いていれば、勇者だろうと次、騎士たる私を侮辱すれば許さないぞ」

「はいはい。じゃあ、聞くがもう一人の勇者についてどう思った?」

 クソ野郎。そう、心底思ったけど求められている答えは違う気がした。ゼロは私に何を応えさせたいんだ。意図を深読みしているうちに、

「遅い。不正解だ。時は金なりだ。時間は大切にしろ。でも、微妙に問題が悪かった気もするな。じゃあ、戦ったら騎士であるあんたとあいつどっちが勝つと思うよ」

「無論、私だ。馬鹿にしているのか」

「やっぱり不正解だ。相手の実力も分からないなんて。お前は弱いなら仕方ないけど、少なくともあの男は弱くないぞ」

 ここで感情的になったら私の負けだ。そう、自分に言い聞かせてなんとか自分を落ち着かせる。さもないと、本気でゼロを斬り殺してしまいそうだ。もし、そんなことをすれば、私だけでなくルイス家がここで断絶させられてもおかしくない。堪えるろ、私。頑張れ、私。

「どうしてそう思うんだ? 当然、そう思うからには根拠があるんだろうな」

「あの男の左手を見たか? 中指から下3本に偉いごっついタコが出来ていただろ…………その様子だと姫様に夢中で見ていないな。だけど、流石に経験くらいあるだろ。剣術を本当にやっているならな」

「…………あの勇者も剣を使ったことがあると言いたいのか?」

 ゼロは無言で頷く。
 ゼロの言っている通りなら、あの勇者は剣を使っている。しかも、言った通りの配置にタコが出来ていると言うのなら剣をきちんと握れていることになる。

「しかし、手だけで決めつけるのは早計ではないか」

「手だけってな。あの男の手を見ていないなら、言葉だけじゃイメージが沸かないかもしれないが。あの男の手は完全に剣を握るためのものだったよ。きっと、タコが出来ようとも毎日、真剣を振っていた証拠だ。それにこれは少し反則かもしれないが、あの男のTシャツに書かれていた高校は剣道の日本一と言われる名門校だ。つまり、あの男はこっちの世界では剣のスペシャリストだったんだよ。それにあんた見る限りだと筋力もなさそうだし、そもそもその手は武道をやるものの手にしては綺麗すぎるよ。蛇足かも知れないが、武芸者としては褒めてないからな」

 言葉が出なかった。未熟な私は異世界からきた勇者を素人と見下してしかいなかったが、ゼロは相手を冷静に観察していた。私のことと言い、ちゃんと周りをよく見ている。

「つまりだ。僕が言いたいことは…………別にここまで来れば、言わなくても分かるよな?」

「ああ。死ぬ気で訓練するしかないなと言うことだろ」

「阿呆か。脳みそ入っていないのか。そもそもなんで僕がそんなスポ根系のノリに付き合わないといけないんだなんてことは言わないでおくけど。そもそも、弱くとも剣術やっていたんだろ。アニメや漫画なんかじゃあるまいし、今から徹夜で特訓したからと言って10年レベルの熟練の剣士に追いつけると思っているのか?」

「それは…………万が一にも奇跡が起これば」

「一つ言っておくと僕ではなくあの男が聖剣に選ばれたら、この国が終わるからな。姫さんとられて、僕たちにとってもバットエンドだからな。それでも奇跡みたいなほとんど行らない不完全要素の塊を馬鹿にみたいに信じるのか?」

「なら、どうすればいいんだよ。私は剣しか降ってきていないから、それしかやり方を知らない。不器用なんだ」

「弱いくせに格好をつけるな。何もしてこなかったから何も思いつかないんだろ。剣のせいにするな…………結局、かなりの遠回りをして僕が言いたかったことなんだが…………その前に、まずはこれからだな」

 ゼロはスクバと呼んでいたカバンから紙とペン。それから方位磁針のようなものを取り出した。

「そもそもだ。これからしばらくの拠点になるって場所で、迷子のなる可能性高いのに地図がないとかそこが、まず問題なんだよ。僕は言いたい。馬鹿かよと。昔の人が戦術上、分かりにくくしたのは別にいいと思う。だが、問題は現在でも地図がない事だろ。灯台下暗しすぎんだろ。自分の家くらいちゃんと把握するくらい基礎中の基礎だろ」

「それを言われるとぐうの音も出ないな。だが、城内の地図がああるなんて聞いたためしがない。でも、時間ないのにそんなことしている余裕あるのか?」

「何度も言うが、基礎をおざなりにしない。これは人生の奥義みたいなもんなんだよ。基礎をこわ目るのに時間なんて関係ない」

 ゼロはそれから一日かけて城内のあらゆるところに入り、完璧な城内の地図を作製した
 が、それに時間を使いすぎてしまい初日はすっかり日が暮れてしまい剣も握る時間もなく終了した。

 あと完全に言葉使いを忘れていた。別にゼロに敬意を払う気なんぞサラサラない。しかし、衛兵や侍女に見つかったら、間違いなく王直々に怒られるから明日からはちゃんと直そう。




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 気を取り直して、勇者が召喚されてから二日目である。
勇者候補のゼロを王宮まで起こしに行くことから私の仕事は始まる。昨日までは起こす相手が姫様だったから、ちょっとしたご褒美気分で朝が始まったが、相手は男。しかも、屁理屈ばかり並べる説教魔人だ。従者としての務めではあるものの。ボイコットしてしまいたい。気がどうしても進まない。
いつもならば、10分程度で済むような道のりに足取りが重くなり過ぎた影響か30分はかけてしまった。決まった時間はないのだが、時間的には少々遅めとなってしまった。

「遅い」

 ゼロの第一声は朝のあいさつではなくそれだった。姫様とは違い。早く起きる習慣が前からあったらしく、退屈だったと朝から元気に機嫌斜めであった。
 でも、ちゃんとこちらが用意したこの国の正装に着替えてくれている点は助かった。

「朝食の後は一日中、剣の訓練となります。ですから、朝の食事は好きなものを申し付けください」

「お前、馬鹿なの? 昨日の話もう忘れたのかよ」

 無数にある地雷を踏んでしまったらしい。こうならないために、ご機嫌取りも兼ねて、好きなものでも食べさせてあげれば機嫌が良くなると思ったのだが。
どうやら、朝から元気に説教モードである。

「あのな。昨日も言ったが、僕が剣の訓練をこれから毎日やったところであんたに勝てるか?」

「…………それは勝てます。負けたら、私としても立場がないですよ」

「そうだろ。当然だよな。たかが、10日間ずっと訓練した程度でそれ以上に訓練してきた人に勝てるほ
ど、現実は甘くないよな」

「ですが、昨日も言いましたが、それ以外にあの男に勝つ道はないですか」

「馬鹿だな。朝食は後回しにして、実験するから少し付き合えよ」

 朝からゼロが左手に持っていた剣を構えた。
 聖剣とは違う、王国騎士団の見習いが使うような細く鋭く尖ったレイピアだ。どっかからくすねて来たのだか。そこらへんに置いてあるものではない。

 騎士見習いがこのレイピアを使う理由はとても軽い。その一点だけである。剣は軽ければ、その分だけまず必要な筋力量が大違いだ。それにレイピアの特性上、生身の人は殺せるが鎧を着た騎士には攻撃を当てても鎧に傷一つつけられない。素人の武器としては安全なのだ。

「廊下で戦うなんてマナーがないですね」

「戦うなんて野蛮なことをする訳ないだろ。それに初心者の僕と一応は騎士の君とでは戦いになんてならないだろ。これは頭の悪い君への軽い講義だ。お手柔らかに頼むよ」

 終始、朝から偉そうにこの態度だ。
 どうしてここまで傲慢なのか。どこかの王族出身なのだろうか。ただ言っていることはかなり的を得ているのは認めるが、もう少し言い方と言うものを考えて欲しい。

 だが、これは絶好のチャンス。昨日、散々馬鹿にした騎士の実力と言うものを我が剣をもって教えて差し上げよう。

「良いでしょう。お相手致します」

 お互い、剣を構える。本人は初心者と言っていたが、剣の構えは熟練者のようにかなり様になっている。絶対、剣初心者は嘘だ。

「どっからでもかかってきても構いませんよ」

「急に、大人になった。もしかして、僕のことを昨日からの仕返しも兼ねて、軽くぶっ飛ばそうなんて考えていないか?」

 相変わらず、人の心を読むのが上手い妖怪だ。だが、今は許そう。
 私はロングソードを構える。長さはレイピアよりも長く、幅も広い。重さもレイピアの数倍あり、騎士見習いが使うレイピアと比べて攻撃力も段違いだ。これでも私は正騎士だ。
 それに正真正銘、突くではなく斬るための武器だ。武器だけ見ても、私の圧倒的に有利な状況に変わりはない。

「それじゃ、試してみますか」

 ゼロの雰囲気が変わった。さっきまでは、ただの駄々っ子オーラだったのに今では騎士団長と対峙するような圧倒的な威圧感。集中が凄まじく、離れた私の肌がひりひりする。
これで剣の初心者(仮)だと言うなら、末恐ろしい。

 ゼロが消えた。正直、ありえないが瞬歩でも使ったかと思った。
 だが、違う相手はこっちに来たばかりの素人だ。なんて瞬歩なんて高等技術を使いこなせる訳ない。と、なると消えてなどいない…………

「くっそ」

 再び、ゼロを視界にとらえた時には既にレイピアの間合い。
ゼロは戦闘に関してはずぶの素人だ。向き合って見て分かる。様にはなっていたが、レイピアの握り方が細部が少しおかしい。剣の構え方は基礎中の基礎。もし、他の世界で習ったとしても絶対に師なる人に修正されるはず。慣れていないのに全力なゼロ。そんな突きを寸でのところで止められるはずがない。私は現在、鉄の鎧を着ていない。

 心臓を一突きされて殺される。まだ。まだ、私は死にたくない。
死の恐怖。それが体を支配した時、反射的に動いた。
今までに類を見ない速度で、後ろに一歩だけ後退。と、同時に構えていた剣をそのまま落とた。剣は重力に従って、重い刀身を下に向けたまま落下した。そして、刀身を完全に下に向けた状態の柄を掴み、少し剣を持ちあげる。
 レイピアの突きを刀身で受け止める。
 死の恐怖の影響で私は瞬時に、無数の選択肢の中から唯一の正解を選び取った。自分でも、ありえないほど冷静であった。が、奇跡としか思えない。

「流石は、騎士だな。正直、本当に驚いたよ。フェイントに引っ掛かった時点で完全に勝ったとばかり思ったんだけど。いや、でも落第騎士扱いされている男にできる芸当ではとても………」

 ゼロも珍しく考え込んでいた。だが、結論には達しなかったようだ。

「ある意味では僕の責任かもしれないな。大人げなく、全力で挑んでしまった。もう一回頼めるか? 今度はもう少し気楽にだ」

「了解です」

 さっきの勝負ですっかり私も毒牙を抜かれてしまった。だから、普通に剣を数回だけ打ち合う程度の手合わせで終わった。

「で、何がしたいのですか?」

「それじゃ、今度、僕は得物を聖剣に変える。だが、容量はさっきと同じだ」

「了解です」

 聖剣のレプリカと言え、選ばれし者にしか扱えない代物だ。さっきのレイピアとは比べ物にならないはずだが、

「手を抜いているのですか?」

「言っただろ。さっきと同じ要領で行くと。僕はつまらない嘘はつかない」

「仮にも聖剣ですよ。一騎当千の力に私が勝てる訳ないと思うのだが」

「その通りだ。僕の推論は正しかった。そもそも、持っただけで素人が大悪魔に勝てる力を手に入れられるはずがないだろ。王様も嘘を言ってはいないと思うけど、本来の力を使うにはそれなりの方法が存在するんだよ…………とりあえず、ご飯だな」

「…………今、このタイミングですか。説明して欲しいんですけど?」

「お前は時間の使い方が下手すぎ。会話なんてご飯を食べながらでも出来るだろ」

 どや顔で言うが、きっと説明してくれないんだとここまでの流れで分かった。ゼロは人の気持ちが分かっていない。

 食事は好きなものを用意すると申し上げたのだが、ゼロは軽くパンでもつまめればいいと言って聞かなかった。
 せっかくの勇者様に対して、朝食が素朴なパンだけなど、王国の良い恥なのだがそれを理解してはくれない。周りからも、勇者様にパンなんぞを食べさせるなんてと耳をすませばあちらこちらから聞こえてくる。きっと、私なんかよりも性能のいいゼロのことだ。きっと全て、聞こえているだろうに。それでも動じない。
 相変わらず、国王級の空気の読めない男である。だが、少しは私のことも考えて頂けるとありがたい。

「いくら時間がないとは言え、移動しながら食事をなさるのはどうかと思いますが?」

「マナーってやつか? 騎士はそこら辺の事情はうるさいんだったな。こればっかりは、『郷に入れば、郷に従え』なんてことわざもあるくらいだし反論しないよ。食べるかい?」

「平気です。私はあらかじめ、朝食はとっていますから問題ありません」

「それならいいや。そうそう。一つ頼まれてくれるか?」

「一応、貴方の従者ですからね。頼みごとを断る権限は持っていませんよ」

 正直、私としては引き受けたくない。だって、独裁的な王様であるゼロが前置きを入れるなんて珍しすぎる。普段なら、偉そうに問答無用で命令してくる。きっと相当やっかいな頼み事なんだろう。心底、聞きたくない。

「それは良かった。それじゃそうだな……………第一条件としては口が堅い人かな。出来れば、あっちの勇者とは関りがない人。そんでもって、体力に自信があって、文字が読める人かな。そんな人たちを10人くらい。あとは王国の歴史に詳しい学者的な人が一人は必要かな。今すぐ、地下にある王国書庫まで連れてきてよ。僕は先に行っているからさ。何が目的とか言わなくても分かるよな?」

「もしかして書庫にある聖剣の使い方を調べるのですか? 結果的に食事の時に話すとか言っていましたが、いきなり常識クイズみたいに言われましても困るのですが」

「確かに。話すとか言っていたな。僕も結構、内心では焦っているのかもしれないな。これは失礼した。だが、これしか道はない。あっちの勇者よりも聖剣を使いこなす」

 反省していないのは言わなくても分かる。
 だが、頼まれたからにはやるしかない。君主に仕えるのは騎士の務めだ。

 ゼロとは別れて、人集める為に城内を走り回っている。
 私は貴族だが偉そうじゃない。腰も低くて、話しやすいと評判だ。だから、それなりに人望はあるはず。顔見知りの衛兵に頼めば、すぐにでも

「………と言うことは、協力してくれるか?」

「嫌ですよ。あの数の書物の中から探すなんて無理です」

 と、なんとも心強い返事をくれる。これで通算10連敗。正直、私ですらも頼まれたら断るであろう面倒くさいから案件だから致し方ない。
 だから、これは目を瞑っていただきたい。騎士として、心苦しいところではあるが命令を遂行するために手段は選んでいられないのだ。
 私は衛兵でも、騎士でもなくある人たちを探した。
少しの悪戯心とともに。




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「それでこれは何だ」

 氷点下に達するほど低い声でゼロは私に聞いて来た。怒っているのが声だけで何とかわかる。顔は怖くて見れない。やはりゼロは無限にあるとかと思う量の書物にも挫けずに読み漁っていたが、思わず手を止めていた。

 騎士として、あるまじき行為だと思うが、ゼロに対してのこのしてやったりな満足感は凄く気持ちがいい。普段、人の心を読む妖怪。偉そうに口を開けば、人に説教ばかりしてくる悪の化身みたいな男だからきっと姫様も許してくれるだろう。

「ねぇ、ゼロ様まぁ。私にどうしても頼みたい仕事があるって言うからぁ」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 連れてきたのはゼロのファンクラブのような街の若い女の子たちだ。
 見た目も華やかで凄く可愛い子たちだ。
姫様には少しだけ及ばないけども、十分に可愛い。正直、ゼロにはもったいないくらいだ。

 あの日の召喚の儀は王国中も注目するイベントで、魔法道具であるミラービジョンを通して映像として城外にも広く流れている。

 ゼロは王宮から出たことがないから知らないと思うが、勇者の下馬評や二人の好感度など外であまり景気
が役なかった反動もあり、お祭り騒ぎ。

 しかも、ゼロは男の私でも見惚れてしまうレベルのイケメンだ。さらに、片方が女を皆、犯してやると宣言したゲス野郎だ。イケメンのゼロのヒールとしてはこれ以上ない存在である。と言う訳で、こうしてもはや宗教レベルのゼロのファンクラブがたったの一日で設立されてしまっている次第である。

 だから、私はゼロのファンクラブ数人をここまで引っ張ってきたのだ。そうしたら、喜んで彼女らは私に力を貸すと言ってきた。
 女の子が全部で16人。当初の予定よりは多いが、多い分には問題ないだろう。

「条件はきちんと満たしていますが何か問題でも?」

 ゼロの苦渋の表情。私の期待通りの表情だ。
深呼吸し気持ちを整えると表情をガラッと変えて、好感度の高い青少年のような笑顔になった。なんと切り替え上手なことだ。外面だけはいいのな。

「すいません。大変だとは思いますがこの大量の本から聖剣に関する資料を探していただきたいのです。向こうの勇者候補に勝つためにどうしても必要なことなのです。どうか僕に力を貸して下さい」

 殊勝にも、ゼロは頭を深々と下げた。
 街の女の子たちは声を合わせて、

「任せて」

 と、言った。私も自然と、身体が動いていた。

「先導者としても素質ありか。本当に、末恐ろしい勇者だな」

 拍手しながら一人の老人が書庫に入ってきた。さっき声をかけて、すぐに来てくれるなんて本当にありがたい。王国内でも偉い人なのに行動が早い。

「マードックさん。良く来てくださいました」

「誰だ?」

 耳打ちでゼロが聞いてきた。

「マードックさん。王国で一番の考古学者です」

 私は胸を張って言った。実際、若い頃から様々な功績を残している。だが、いかんせん協調性のない変わり者で実力もあるのだが、周りからはどうも好かれていない。世渡りが極端に下手なのだ。ゼロを少しは見習って欲しい。かくいう、私も世渡り上手とは決して言えないけど。

「そんなに褒めるな。儂はただの老いぼれだよ」

「王国の歴史について研究されているのですか?」

「何が聞きたいのかね?」

 何故か合わせてはいけない二人を合わせてしまったらしい。頭がい同士だと会話を聞いていても全然分からない。が、雰囲気が似ている。

 どうせ文字が読めないからいても仕方がないと、別の場所に移動することになった。ゼロが何かをやらかすと危ないので人手不足ながらも私もお供することに決めた。

 移動した場所は隣の部屋。私はお洒落で清潔な場所にでもと進言したが、二人とも移動時間が惜しいと断られてしまった。

「効率的で分かり易くていいよ。じゃあ、4つだけ。1つ目は聖剣のありかだ」

「教えない。いや、教えられないと言ったところだ」

「つまり、場所は知っていると?」

「イエスとだけ言っておこう」

「なるほどね。2つ目はあそこの本を読んだことあるかについてだ? どうせ、聖剣の能力に関しては何も言えないんだろ。もし、言えるはずなら国王から聞かされても不思議ではない内容だからな。僕にだけ言うのは平等じゃないからなんとなく察していたわ」

「その通りだ。私を含む何人かの考古学者や王国の幹部連中にはあらかじめ禁足事項を伝えられている。そして、2つ目の質問に関しては当然。イエスだ。研究者なら当然のノルマだよ。これはおまけだが、君の知りたいことはあの中にあるよ」

「それは良かった。それじゃ、3つ目。どうして、僕とあの男が勇者候補として選ばれたんだ。選抜基準は何なんだ?」

「それは知らんよ。予想では聖剣が選んでいる」

「なら、聖剣は誰が創ったんだ。聖剣と勇者召喚の儀には関係があることは確かだろ」

「誰が創ったね。そりゃ、神さまだ…………冗談だよ。子供の頃、それを調べることこそが、儂の人生の意味だと思っていた。だが、この歳になるまで儂の人生の全てを費やしてきたつもりだが、そのしっぽすら掴めなかったよ」

 マードックさんは今までマイペースな人で常に優しい顔をしているイメージがあったけど、今はとても悔しそうな顔をしている。

「4つ目は僕からと言うかマードックさんが僕に聞きたいことがあると思って枠をとっておいた感じだな。図星だろ?」

「全く、面白い奴だな。今までに見たことないくらいに頭が切れる。本当に人間かと疑いたくなる」

 変わり者の偏屈じじぃと呼ばれていたマードックさんは少し笑った。こんなに表情が変わるところは初めてみた。私には高度すぎて微妙に何を言っているのか分からないからない。

「私も新しい勇者がまさか城内の地図を製作したり、書庫漁りをするなんて噂を聞いたからな。少しだけ興味を持ったのだよ。まるで、勇者の模範解答を見ているみたいだ」

「微妙に奇跡的なタイミングが重なっただけだよ。本当に地図を作製したのだって不便だからってだけだ」

「地図が聖剣に関係あるのか?」

 一区切りついたようなので少し聞いてみた。

「お前も一緒に作っただろ。気になる点とかなかったのかよ?」

「それが全然。やっぱり迷路みたいになっているなと思っただけ」

「素直でよろしい。正直、彼が化物じみているだけだよ。聖剣の在りかは王様以外には絶対に分からないように造られているんだ。勇者だって、教えられてやっと分かるのが通年だ」 

 全然、褒められている気がしない。
 それからマードックさんは何かをゼロにこっそりと何かを耳打ちしてから用事があると言って、自分の研究室へと戻って行った。

 ゼロは食堂に行き、飲み物と軽食を頼むと言うからお供した。
 作業は難航を極めた。まさかの古代文字が登場し始めたころには、各いう私も戦力外となった。幸い、古代文字が読める人が4人もいたおかげで詰みとまでいかなかったけども書物の量に反して、断然、解読速度は遅くなった。

「厳しいな」

「…………お客さんが来た」

「こんな夜更けにか?」

 現在の時刻は丑三つ時と呼ばれる夜が最も深い時間だ。こんな時間にまっとうな人間がわざわざこんな書物しかない部屋を訪れるとは思えない。

「同感だよ。その剣を貸せ。僕が敵の注意を引き付けるから。せっかく、手を貸してくれた人間を巻き込むわけにはいかない」

「それは騎士として賛成だ。だが、聖剣のレプリカで戦えばいいんじゃないのか? その方が技術的に足りなくても少しは補えるんじゃないか?」


「敵の狙いが分からない以上、それは厳しい選択だ。きちんと使いこなせるならまだしも今の僕ではあまり戦力にならない。可能性として考えられる中で一番高い向こうの勇者の刺客だったらどうするんだ。聖剣を奪われれば、僕は勇者候補の資格を剥奪されたも同然だろ。」

「殺されれば、資格も何も」

「そうならないために人を集める必要がある。――――を頼めるか」

「私そんなことをすれば、極刑ですよ」

「安心しろ。護衛が勇者候補を守れなければ。どのみち死刑は免れんだろ。実力ないんだ。責任くらいはまともに取れ」

「卑怯です。分かりました。やれば、いいんでしょ?」

 やけくそだよ。この状況ではやはりゼロが正しい。

「そうだ。頼むからな」

 ゼロはそう言って、私の剣を持って部屋をこっそりと抜けだした。私も間髪入れずに後をつけていく。灯の灯っていない階段を足音立てずに、どんどん進んで行く。
 そして、一階の広間までに来る。すると、誰もいない暗闇に向けてゼロが、

「覗きなんて趣味が悪いぜ。隠れていないでとっとと出て来いよ」

「無理やな」

 なんか飛んでくる。矢か? ただでさえ、暗い状況の中、素早いのでかなり矢は捉えずらい。だが、見間違えかはっきりとしないが矢は2本に見えた。まさか刺客は二人いるのか?

「ゼロ。避けろ」

「当てるならもっと殺気出せよ」

 ゼロは微動だにしなかった。2本の矢はちょうどゼロの顔の真横を通り過ぎて行った。もし、少しでも動けば脳天に突き刺さっていたかもしれない。普通の神経じゃ考えられない選択だ。誰だって、何かが飛んで来れば反射的に避けるのが必然だろう。

「おいおい。残念ながら、これ以上やるとなると冗談じゃ済まないで」

「なら、撤退しろ。僕としても殺し合いは望むところではない」

「気が変わったよ。おどれと、少しだけなら遊んでみたくなっちゃったわ。付き合ってもらうわ」

 陰から現れた一人の男。黒いマントで全身を覆っていて、顔どころか体格すらはっきりと分からない。ただ、剣はとんでもない名刀だ。
 特徴的な赤い輝くルビーのような刀身。極限まで薄くされた刃。半円状にまで曲がった通常のコンセプトとは掛け離れた面白い逸品だ。  
恐らく、名匠アルファス・グランドの造った11本の傑作の一振りだ。確か名前はハンブルクだ。専用に鍛えないと使いこなせない。

「とある言葉があるぜ。逃げるが勝ち」

「冗談。許す訳がないじゃん」

 ゼロはさっきの作戦通り。書庫から離れていく。ただ、ここの地域は国王陛下の寝室からは遠く警備はざると言っても過言じゃない。偶然にはあまり期待できない。

 剣士とは独特のステップ。踊るような剣戟だ。回転の遠心力を上手に活用して、刃に自身の体重を乗せている。あれを食らえば、腕くらい簡単に吹っ飛ぶことになるぞ。
 ゼロは上手く攻撃をかわすも、剣を抜いてすらいない。そんな余裕なんて相手さんはゼロに与えていないんだ。

「くっそ」

「評判よりも逃げるのは上手じゃないか。噂だと素人って評判だったんだけどな。単に目が良いだけかい?」

「お前こそ。誰なんだよ。そんな曲芸。まっとうな騎士の間じゃ流行らないぜ」

「こっちこそ騎士なんて堅苦しいのはとうの昔に止めたんや」

「だろうな。その程度だと遊び人が限界だよ」

「そりゃ、手厳しいわ」

 黒マントは本気を出していない。完全に遊んでいるだけだ。
 私もその役目を何としてもまっとうしなくてはならない。気が変われば、黒マントはすぐにでもゼロを殺せる。だが、ゼロには勝目がない。

 ――――油をばら撒いて、そこに火を落とせ。そうすれば、自然と相手は逃げるはず。

 確かに言う通りだ。火災なんて起これば自然と人はたくさん集まる。暗殺者なのだとしたら、人目は絶対に避けたいはず。

 幸い、城には至る所にたいまつに火をつける為の油が存在する。任務としてはたやすいが城を燃やすのは流石に抵抗がある。倫理観がどうしても残るけど、ゼロには死なれては困るからやるしかない。それしか生き残る道はない。

「このタイミングでの襲撃。まるで調べられたら不味いものがあるみたいだな」

「それは気にしすぎや。と言っても信じないよな」

「いや、その回答で知りたいことは何となく分かったよ」

「俺、嘘って苦手なんだよね。サックっと殺しちゃいますかな」

 ここで初めて黒マントから殺気を感じる。それを感じ取ったのか、ゼロも距離を取り始める。
 黒マントが距離を詰めてくるのに対して、ゼロは後ろを一切振り向かずに全力でダッシュした。なんとか予定通りの地点に戻って来た。私は今がチャンスだと思いゼロの後退に合わせて、油をばら撒く。上手く黒マントに少しかかった。
「合格だ」

 隠しておいた火打石をゼロが油に投げ込む。すると、油を伝って火は城内を一瞬で駆け巡って行く。黒マントは一瞬の判断で燃え始めたマントを脱ぎ捨て、逃走したのがギリギリ見えた。
 ぼんやりとだが、そのシルエットは男のものだ。
「難は逃れたな。ありゃ危険すぎる」

「確かに。腕は半端じゃなかった。私よりも断然、格上です」

「まぁ、もう襲ってこないよ」

「根拠は何ですか?」

「一言で言えば、相手が遊び人だからだな。それに今回の襲撃の目的は推測の域を出ないが書庫だ。僕らに見られたくないものでもあったんだろ。だが、調べ物もあと2日程度で片が付く。それに火事騒ぎがここで起きたんだ。ここの警備だって当然、厚くなる」

「あいつの腕なら多少の警備兵は簡単に殺せるだろ」

「だろうな。だが、そんなことはしないだろ。そうしたいのなら、既に僕は生きてはいないさ。敵さんにはまだ仕事がある都合上、姿を見られるわけにはいかず、殺すなら穏便に殺したかったんだよ」

 結局、ゼロの読み通り初日の夜に敵の襲撃があってからは特に平和な時間だった。

 それから作業は2日ほど労して、やっとお目当ての文献を見つけることが出来た。街の女の子たちにはいくら感謝しても足りないくらいだ。訓練とは別に意味でとても過酷な時間だった。彼女たちがいなければ、いつも偉そうなゼロは字が読めないらしいから、私だけでやったと思うとぞっとする。

 その間、ゼロは字を教わりながらも侍女たちのようにひたすら何事もなかったかのように彼女たちを接待して、相手も満足そうに帰って行った。これがwin-winの関係と言うことだろう。腹が立つことにゼロは、たった1日半くらいのわずかな時間で読み書きが可能になった。憎らしいけど、本当に優秀な男だ。悔しいが認めるしかない。


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