Σ:エンブレム 他人恋愛症候群

一姫結菜

市谷 零の宣言

 いきなり召喚陣によって問答無用に呼び出されたかと思えば、偉そうな王様を始めとする大勢の人たちの好奇の視線にさらされている。
 残念ながら、僕は動物園のパンダではないのだし、時代感が少し異なるだけで目も2つ、鼻も1つあるし、顔の造りは僕の世界と大して変わらないのだからそんな興味深そうに見ることもないだろう。何が楽しいのだか。観賞用ペットになんぞ絶対に成り下がらない。

 しかも、女神さまには向こうの姫と名前が被るから違う名前を名乗れとか意味の分からないことを言われるし。完全に勇者を舐めているだろ。それくらいは用意しろよ。

 立場は救ってもらいたいお前らの方が下なんだからな。救ってくれって足を舐めてきたって絶対に救ってやるもんか。げらげら笑いながら滅びゆく世界を眺めてやる。

「それぞれ名を述べよ」

 王様がそう言うと隣のタンクトップの男は間髪入れずに名乗った。しかも、明らかに本名だ。暑苦しそうな男で、声がでかそう。運動部のノリは帰宅部の僕には着いて行けない。
 何にするかを考えているうちに自然と、

「……ゼロ」

 零だからそれをそのまま英語にしただけと言う中二病センス。他にもっと良い案はあったはずなのに。緊張状態では普段の1パーセントもパフォーマンスを発揮できない。これでも大人気ライトノベル作家でもあるんだけどな。笑わせるなって話。

「ゼロと言ったな。明らかにそれは本名ではないと思うのだがどうしてか?」

 ほら、思った通り。僕が逆の立場なら100パーセント同じように疑うだろう。疑わない方が返って頭おかしい。
 異世界に無理やり呼ばれていきなりの大ピンチ。オワコンだわ。
 いきなり偽名なんか名乗るなんて、普通にばれたらアメリカだって即、殺されるだろう。地球より重力が軽いとか、新たな能力に覚醒した感じ微塵もない。文化部系な僕にはこの場を力で制圧する。なんて無双ゲーなんて展開にはならないだろう。

 悩みに悩んだがオチとしては適当に答えた。話はそれで大丈夫だったらしく問題なく続いていくが、今の僕の頭の中は立て続けに起こるイベントによるパニックでそれどころではない。一旦、セーブが欲しい。それか時間停止でも可。予想外の展開アドリブに弱いのは僕の欠点だな。だから、こんな事態を避けたはずなんだけどな。異世界召喚なんて人間に予想出来るはずがないだろう。

「ゼロ。貴公は国王の座には興味にないと申すのか?」

「ないよ。ある訳がない」

 なんとか頭の整理をしていると不意に名前を呼ばれた。
 実際、普通の高校生の僕がなんでわざわざ異世界で王様なんぞ面倒くさいことをやらねばならないのだ。異世界なんか来なくても実家は金持ちで僕も金はかなりの額を稼いでいるし、親は忙しくて僕にあまり干渉してこない。十二分に、今の暮らしに満足しているのだ。だって、これだけで普通に勝ち組。わざわざ、劣化文明の異世界の王様になりたいとか貧乏人かよ。

「と、言うことはだ。王様候補は俺だけになったのか。それは良かったわ。俺としても、同じ国の高校生と
無駄な争いごとはしたくなかったからな。良かった、良かった」

 能天気にもタンクトップの男は僕の王様を目指す気がない旨を聞いて喜んでいる。
 僕にはその気持ちミリも理解できないが、きっと将来の夢は王様になるとかいうメルヘンチックなままこうして大人になったのであろう。人は見かけによらない。ボランティア精神旺盛だな。微塵も見習いたくはないけどな。

「王様。良い響きだ。何もかもが俺の思い通りになるってか」

 あまりにも下品な笑い方をされるとこちらも気に障る。だが、これまでの態度が関係ないくらい次の一言は僕を完全に本気にさせてしまった。これを蛇足と言うのだ。

「これで美人な女と結婚できて、城内。いや、街中の娘を犯し放題か。これは最強のハーレムだな。異世界様様ってか。俺、超主人公」

 馬鹿だよな。
ハーレム超否定論者の僕の前では絶対に言ってはならぬことを言った。日本の古来の言葉で言うなら。地雷を踏んだと言う奴だ。

 男の言葉を聞いた国王も周りも完全に引いていた。だが、僕が辞退した以上、このヤリチン勇者に頼むしか国が生き残る道はない。血の気も引いて、王は青い顔をしている。
 そして何よりも僕が注目していた騎士の一人が腰にある剣を掴み、怒りに我を忘れて今にもこちらを斬りかかってきそうだ。

「…………これは僕の趣味だわ。本当に」

 心の底から怒りとともに、笑いが沸きあがって来た。

「お前、何をぶつぶつ言っているんだ。気持ちが悪いぞ」

「ヤリチン勇者。お前、本当に分かっていないな。全然、愛と言うものを理解していない」

「はぁ? 何を言っているだ。頭でもおかしくなったのか?」
 僕は趣味に生きる男。その為なら、命すら惜しくない。

「王様。僕も参戦する。その勇者レースにな」

「それは良かった。だが、どうして急にやる気になったのだ? もしや、貴公も……」

「心配ご無用だ。そして、宣言する。僕がベリアルを倒した暁にはそこに騎士を王に推薦する」

 僕はさっきまで我を忘れて斬りかかってこようとしてきた騎士を指した。
 すると、城内はえ? と疑問の渦が発生した。

「何が目的なの?」

 今まで終始無言だった、姫さんが動揺を隠しきれず訪ねてくる。まぁ、僕意外には理解できないと思うから仕方なく、

「そこのヤリチン勇者に教えてやろうと思ってな。姫に密かに思いを寄せる騎士が、勇者とともに大悪魔を倒して立場に差を越えて姫と結ばれるって言う非現実を越える最高に萌えるハッピーエンドおな。愛の伝道師直々骨の髄まで教えてやるよ」

 僕の宣言はあまりにも突飛な発想だったらしく、場が凍った。
 指を指された騎士は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしているのが分かる。
 分かり易い奴は僕としても嫌いではない。どちらかと言えば、大好物だ。
 やっぱり身分を越える情熱的な恋ってやつは現実に存在しないからな。萌えるイベントなのに関わらずにだ。
そんな奇跡が見られるなら異世界生活だって悪くない。僕の夢にまで見て書いた小説のような展開。

「…………分かった。貴公らのスタンスは理解した。その上で、この聖剣のレプリカを渡そう」
 王はどちらも好みではなさそうだ。だが、王は僕を拒絶することは出来ない。じゃなければ、問答無用でヤリチン勇者が王になることになる。大事な娘がこのような無礼な男と結婚するのは誰だって親なら嫌だろう。

「レプリカ? なんでそんなまどろっこしいことをするんだよ。本物を俺に寄こせ。脳内お花畑野郎なんかに国は救えない」

「これは裕所正しき勇者の儀式なのだよ。レプリカを持って二人が戦い勝者のみが真の聖剣を持つことが初めて許される。だから、一国王に過ぎない私にもそのような権限は持っておらんよ」

「しょぼい王様だな。まぁいいさ。俺がすべて変えてやるよ。俺の為の国にさ」

「…………それぞれ、君らには従者か侍女を付けよう。ただし、二人のむやみな接触は禁ずる。およそ10日後に、ベリアルが我が国に攻め込んでくる。それまでに戦闘準備をしてくれ給え」

「その従者って指名してもいいのか?」

「…………構わんが」

「じゃあ、僕はあいつを指定するよ。えっと、名前は?」

 さっきの騎士を指名する。騎士は予想だにしていなかったようで鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。

「…………エドワード・ルイスです」

 完全に渋々な感じは伝わってくるが、所作はきちんとしていて僕の元に近づいてくると片膝をつき、そこで頭を下げた。命令に渋々なのが分かるのが未熟。

「お前、ホモかよ。わざわざ男を指名するような童貞野郎の気が知れないぜ。俺は分かっていると思うが美人の巨乳の姉ちゃんで頼むぞ。男にしたら、ぶっ殺すからな」

 火花バチバチ。男は僕に対して、敵意丸出しの態度をとってくる。完全に僕のせいとは言え、その迫力には普通にビビる。だが、それを悟られるのはダサいので平気な顔を作る。

「それではこれにて勇者の儀を終わりとする」

 そこから僕の行き当たりばったりな戦いが始まる。始まらなくても良かったけど。

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