Σ:エンブレム 他人恋愛症候群

一姫結菜

レイ・アズマールの災難

 私の名前はレイ・アルマーズ。アルマーズ帝国の国王の一人娘で、自分で言うものかなりなんだけど、傾国の美女と呼ばれるにふさわしい姿をもっていると思うの。だって、私クラスの美女が変に謙遜するのは逆に失礼でしょ。
 髪だって最高級品のもの使って手入れしているので艶がある綺麗な黒髪だし、着物だって王家の力でいつも上等なものを着ている。正直、他の庶民と比べても努力値の桁が3つ以上は違うと思うの。
現在、アルマーズ帝国は国家存亡の危機に面しているらしいのよね。
 こうして他人事のようにフラットに言えるのはまだ私があまり実感が沸かないからってだけで、下町の方達は心配で夜も寝られないとか、今から夜逃げの準備をしているなんて噂話を良く聞くけど。その真は定かではないわ。

 その原因と言うのが、五大要素を司る大悪魔のうちの一角であるベリアルがこの国を狙っているという情報が冒険者の方達からもたらされたから。
 ベリアルは魔族の中でも膨大な魔力を持っており、強力な火炎攻撃を繰り出してくる。並みの防具ではないのと変わらないって言われているの。それが1万もの魔族兵を連れてきているとかいう絶望的な状況。

 私の国の兵士がどれだけいるのかとか全く知らないけど、普通に考えれば国家存亡レベルのピンチよね。
 国王であるお父様も何というかそれ以来はいつも慌て何かの儀式の準備に取り掛かっていてせわしないのよね。国王たるものどんな時にも冷静でいなさいよ。

「ねぇ、城の中の様子はどうですか?」

 外に出ても皆がピリピリしているので暫くの間、無駄に城内の人から怒りを買うのも馬鹿らしいから部屋で大人しくしている。その為、退屈で仕方ない。

「僕もあまり良く分かりませんが、慌てていますね。ただ私は姫様の専属の騎士ですからね。ベリアルに関しては完全に専門外なんですよ。もし、本当に気になるのなら国王陛下に直々に聞きに行かれた方が早いのでは?」

「私の騎士の癖に無能ですよね。解雇しますよ」

「酷いのは姫様ですよね。大して、国のことになんて本心では全く関心がないのに意地悪を言う」

 彼は私の騎士のエドワード・ルイス。ルイス家は名門の貴族で、大人の事情で私と一緒にいる時間がとても長い腐れ縁みたいなもの。
 私にとっては出来の悪い弟みたいなものね。
 騎士の癖に170センチくらいでちっちゃいし、なんか筋肉もあんまりなくて全体的に細いし。顔も子犬みたいなのよね。
そこが可愛いらしいって侍女たちには人気みたいだけど。私の騎士としてはもっと強面の強いのがいいのよね。彼だといざと言うときに逆に私が守ってあげないといけなそうな感じあるし。騎士としてそれは落第点よね。

「でも、儀式で異世界から勇者を呼ぶとかなんとか…………で、ベリアルを倒した勇者と結婚するとかいう話を侍女たちが話しているのを聞きました」

 目の前の男はとんでもない事実をサラッと言った。本当に意味を分かって言っているのかしら。だとしたら、本当に打ち首よね。お父様に言いつけてあげようかしら。

「え? そんな話を私は聞いていないのだけど。センスを疑うような冗談は控えてもらえますか?」

「侍女たちが話をしているのを耳にして程度ですから詳しくは何とも。ですが、もし本当ならば近いうちに姫様にもお話があると思います」

「当然です。それでエドはどう感じていますか? 私、どこかの世界から来る男と結婚することになります。寂しくないのですか?」

「そ、それは…………それはえっと………悲しいです」

 意地悪で言って見ると、彼はゆでた蛸のように顔を赤くしている。
 エドは私が私のことが好きなことに気が付いていないと思っているけど、そんなこと10年も前から知っている。
 エドは私に恋をしているのだ。しかも、それを城内の人たちの大半が知っていると言うのにエドはあくまでも隠しているつもりなのだ。

「私は国の為にお父様の指示に従うだけです。召喚された勇者がどんな女癖が悪い男であろうとも結婚することになりますけどね」

「それは…………そうですね」

 そんなこと内心では微塵も思ってないわ。
ただ、王族の務めとして本音を話すべからず。常に民衆に正解を示すべき。そう教わって育ってきた。だから、私の口はとても丁寧で模範的な解答ばかりを話す。反して、どんどん私の心はやさぐれていった。
 そんな私の趣味の唯一の趣味は他人の恋愛。
 普段からやることのないお飾りの姫である私は、城内を無駄に歩いては兵士と侍女たちを見て、あいつら付き合い始めた。とか、そろそろ結婚しそうだなんて下世話なことを妄想しているのが至福の時なのよね。
だから、わざわざお父様が暮らしているサキュリス本宮から離れた本来ならば、侍女たちが普通に生活する離塔に暮らしているの。それもこれも家庭の事情や政治で結ばれる貴族ではなく、愛によって結ばれる恋愛自由な庶民をより身近で観察するためにこうしているの。この世の娯楽で人の人生を見ること以上のものはない。断言できるわ。

「お姫様は本当にそれでよろしいのですか?」

「それが務めですから」

「とても不満がある顔をしていますが?」

「別に務めとは言いましたが、不満がないとは言っていませんよ。ですが、願わくは性格だけはまともな勇者が来ることを願うくらいは構わないかしら?」

「はい。そうですね。僕も騎士としてお姫様の幸せを心より願い申し上げます」

 私はこの時から言葉にならない不吉な予感を感じていた。とてつもない災難が私に降りかかってくるような気がしたの。悪いことに私の悪い予感は残念なことにほぼ100パーセントの確率で当たるのよね。


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 それから二日後、お父様が国を挙げて造り上げた巨大な魔方陣が王の間に完成したらしいの。それから初めて私の将来に関する重要な話をお父様から聞かされたわ。

 城中から始まり、噂なって、街の人も知るところになってからの私への報告は遅すぎると思うわ。私だって噂で、ある程度の概略は知っていたし。


「それにしても壮大ですわね。これほどの代物を他に私は見たことがありません」

「当然だ。これは神代魔法の一つ。国の国力の半分を代償にするのだ。当然であろう。逆に、それに見合ったものでなければ、民も報われんのだろう」

 私はいつも以上に侍女たちにおめかしを強要され、王座の隣に座っていた。
 今日の私は勇者様の景品。勇者様に美しい姫の為にならこの国の為に命を懸けても救ってもいいと思わせなければならない。
 宝石で彩られた豪華なドレスを着て、見栄えを意識して、スタイルを美しく見せるために強引に〆ている。おかげで息が本当に苦しい。美人は息をしないとでも思っているかしら。
 隣りに座るお父様はいつもと同じ代々受け継がれる王冠を頭にのせて、王族専用に仕えている職人があつらえた一級品のマントを付けている。中の王族服も恐らく上物であることは間違いないと思う。服なんてこれっぽっちも興味ないから私詳しくないから分からないけど。身の回りのことは侍女たちがいつも色々と世話してくれるしね。

「整いました。国王、呪文を」

 名前を忘れたけど、偉い学者さんだった気がする。
大体、顔を見れば職業柄がでるもの。特にこの場合は、髭がその証拠ね。城内で会う髭が凄い人は皆、学者と思って間違いないってエドが言っていたし。ただ、エドの言うことを鵜吞みにするのもまたそれはそれで問題なのよね。

「王国を救いし、英雄よ。世界を超え、時空を超え、生も死も越え、今一度、我が御前に姿を現せ。遥か彼方から来訪した者よ」

 王が声を張り上げて呪文を唱える。
 唱え終わると、王の間に描かれた半径10メートルの巨大な円が強烈に光りだす。それは王の間を包み込み、王の間にいるすべての人の視界を奪う。
視界が皆に戻る頃に二人の黒い立ち姿のシルエットが巨大な円の中心に現れていた。
 一人は騎士のように筋肉質の大柄な狂暴そうな風貌の男。
 一人は細身ながらもしっかりとした体つきの超絶イケメン。
異世界から訪れた者だから、服装も私の知っている服装とは違うけどが筋肉質の男はかなりの薄着でそれ服着ているうちに入らないんじゃないって感じで、イケメン君は私達の文化に近いような感じの服ね。

「貴公ら、それぞれ名前を述べよ」

 お父様が舐められちゃいかんとばかりに、声を張り上げて命令する。普段と態度が大違い。そこを言及する人はいないけど。

「俺は名護健吾。18歳な」

 それからちょっとだけ間が空いてから、

「…………僕も名乗らないといけないのかよ。でも、一応は空気読んで名乗っとくよ。ゼロだ」

 元気すぎる暑苦しそうな勇者とのと若干ひねくれてそうなイケメン勇者。見事に正反対な二人だけど、私はどちらもあまり好きではないわ。前者は生理的に無理で、後者は私と同族そうだから馬が合わなそう。顔同士ってどうしても合い入れぬところがあるのよ
普段から怠けてばかりいたせいで、肝心な時に神様に見放されて外れを引いてしまったのかしら。神様もえらく酷い意地悪をするものね。

「ゼロと名乗ったな。明らかにそれは本名ではないと思うんだがどうしてか?」

 私も気になった点をお父様が聞いた。ここで虚偽を申す人物はいくら強かろうと人として信用できないと言うレッテルを張られることになるわね。

「…………本名じゃないよ。ただ、僕には残念ながら本名を言えない深刻な理由があるんだよ。だから、これ以上は勘弁してくれ」

 イケメンは挙動不審ながらもそう答えた。

 使用する言葉だけは強気な気がするが、10メートルくらい離れている私の元までダイレクトに緊張が伝わってくる。心臓の音が聞こえる。きっとこういった大勢に注目されるような場所になれていないのね。
 そして、変わりに名護健吾は慣れているようね。どこかの貴族なのかしら。異世界についてはあまりお父様から調べるなって言われて釘を刺されているから詳細はまったく知らないけど。変に先入観があるのは良くないとか言われたわ。

「なんで呼ばれたんだ。俺はこの後、部活とかで忙しいんだけど」

「率直に言って、二人には国を救って頂きたい」

「はぁ? 無理だろ。俺はいやこの男も国なんて大層なものを救える訳ないだろ。平和の国、日本のどっちも普通の高校生じゃないか。そうだろ?」

 ゼロは名護健吾の言葉を無視した。いや、無視したと言うよりさっきの発言をまだ気まずそうに引きずっており、耳には入っていなかったと言った感じね。見た目とは裏腹に繊細なのかも知れない。

「それについては問題ない。例え、今まで虫も殺したことのない素人だとしても異世界から来たあなた達にしか扱えない最強の聖剣が存在する。それを使えば勝てる」

「それじゃ俺らには楽勝って訳かい。それはいいね。簡単なこと、ぬるいことは大好きだ。なにせ、俺は根っからのゆとり世代ってやつだ」

 そう名護健吾は言った。しかし、ベリアルを倒すのはお父様が言っているほど簡単な話ではないと思うの。だって、たかが剣一本で戦況が変わるなんておとぎ話の英雄の武器ではないのだから。

「勇者として国を救ってくれた暁には私の可愛い娘レイ・アルマーズと結婚をして、次期国王として迎え入れよう」

「王様か。それはいい。そそるじゃないか。やってやるよ」

 名護健吾は王様になる決意を恐れ知らずにも表明したけど、ゼロと名乗る男はあまり乗り気でなかった。そもそも、ゼロはお父様の方を全然見ていない。どちらかと言うとさっきから私の方を凝視している気がするのよね。
 私、惚れられてしまったのかしら。私、美人だからね。でも、ちょっとだけだけど見た目だけならイメ県だし、私と釣り合うかも。


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