Σ:エンブレム 他人恋愛症候群

一姫結菜

市谷 零の事情

僕の職業が女子をキュンキュン言わせる恋愛小説作家で、男子がブヒブヒ言わせるライトノベル作家であることは周知されていない事実。
僕が家の近くの私立に通う学生であること。テレビに出ている俳優と比べても遜色ないイケメンであることは残念ながら、県内の同年代の人ならば、誰でも知っているだろう。
僕の趣味がこの作家と言う職業につながるっている。だからこそ、親くらいにしか言っていない。いや、言えないのだ。趣味を他人に理解されることは滅多なことでもない限りはありえないし、理解してもらえないし、単に嫌味としか認識されない僕も自覚している。

 重要な問題。それは僕が超絶イケメンであることにすべてが起因する。
 同じ高校の女子からは勿論のことながら、こないだは他県の高校の女子から告白されてしまった。芸能界のスカウトからは街に出る度に迫ってこられる。根負けして、たまにモデルの仕事をしたりしている。それが通常の20倍くらいの部数が出るらしく、かなり強引に迫ってこられたりもする。

 ファンクラブの会員数は非公式では断トツなんて噂を耳にするくらいだ。あまりインターネットは好きではないので調べたこともないからそれが真実かどうかははっきりとしないけども。
別に僕としては容姿に関しては微塵も興味なく、どちらかと言えばデブや根暗の方がありがたかった。それに言ってしまえば、僕の容姿なんてものは努力で手に入れた訳ではなく完全に両親からもらったものだ。

 僕の両親と言えば、母親が昔に日本中で流行った誰もが知る超が付くほど人気だった超国民的アイドル。父親が一世を風靡したロックバンドのボーカル。ヴィジュアル系の走りでもあり、現在はいくつものがアイドルをプロデュースする人気プロデューサーをしている。ちなみに、母親は何を血迷ったのか超絶美少女作家として人気作を世に送り出していたりする。
おかげで、僕は生まれながらに圧倒的なヴィジュアルを誇り、さらには日本でも有数の金持ちであった。

そんな僕の趣味は一言で言えば、恋バナ。
そんなことを言ってしまえば、僕の容姿ではただの自慢話にしかならんだろう。そこを察することが出来ないマヌケではない。
ここで勘違いしてほしくないのは僕が誰かと付き会いたかったり、ハーレム王を目指していたりしている訳では決してない。やろうと思えば、可能だけども。当然、チャラ男のように毎日、女の子と遊ぶのが好きな訳でもない。ここで言っておくが、僕は断じてホモではない。バイでもない。
生まれてから既に2000人を超える女子からの告白をすべて断っているのは、純粋な男であることを証明だろう。
一言だけ言わせてもらえるならば、僕なんかと付き合わないで他に存在する運命の赤い糸で結ばれた相手でも見つけて付き合って欲しい。僕としてはそれで惚気話でもして欲しい。
恋愛相談でもしてくれれば、全力で応援する所存である。金や僕の人脈をフルに活用することも厭わない。
 だが、残念ながら恋愛相談を持ち掛けられるケースはほとんどない。あったとしても、それは僕と話したいだけの口実とか。期待に胸を躍らせながら聞いていたから、その時は心底がっかりした。金輪際、止めて貰いたい。
僕はギャルゲーやエロゲにどっぷりハマっている。自分で言うのもなんだが、かなりの重度なジャンキーだ。彼女らは大前提として可愛い。そして、僕に対しては微塵も興味がない。僕ではない主人公と言う存在とイチャイチャ存分にしてくれる。すげぇ興奮する。
 他人恋愛性癖。これは僕が名付けた僕の性癖だ。僕の犯されている病だ。

 本来ならば、家に帰って速攻ゲームしたいのだが、放課後にはある意味では部活のような厄介な強制イベントが待っている。
 俗に言う告白タイムと言う奴だ。
 朝起きて、学校に登校すると必ず呼び出しの手紙が入っている。ぶっちゃけ、どうせどんな相手が来ようとも断るのは決定事項だし、行くだけ無駄なのだとは思う。
それでも一応は僕なんかを好きになってこうして勇気を出して手紙まで書いてくれる女子の思いを少し考えれば、結果はどうであれ会うくらいするのが筋だと思うからやっている。

「それで今日の相手との待ち合わせ場所は必ず結ばれるとか誰が言ったかソース不明なミーハーな噂があるこの街では有名な木があるところか。必ず結ばれるとか言われても所詮は噂だからな。あそこで僕が何人の女の子をふったんだって話なんだよな。それどころかあそこで成立したカップルの噂なんて聞いたことがないっての」

 毒を吐きながらちゃんと向向かう。
 目的地の公園では辺りをきょろきょろと若干、不審者ともとれる行動をしていた女子高生がいた。手紙の差出人はあの子で間違いない。
今までに見たことがない知らない制服だし、これは他県の学校だな。毎日の告白タイムのおかげで、あまり自慢できる特技ではないが県内の高校なら女子の制服だけでどこの学校か分かってしまう。これではまるで、ただの女好きだ。
 知らない人とか平気で手紙を出してくるけどそもそもの話、差出人の名前は合っても写真とかが入ってないし、入っていたとしても加工バリバリのプリクラだから実物とは離れているケースが大半で、複数の女子高生がいたりすると本当に困る。
だって、君が僕に告白したいの? なんて、言わずとも分かるが間違っていれば、ただの自意識過剰なナンパ野郎だ。しかも、僕の容姿では成功率はきっと100パーセントだろう。これは自意識過剰ではない。リアルだから僕もこうして悩んでいるのだ。
 まぁ、ほとんどのケースが僕を発見した彼女たちが駆け寄ってくる感じだ。
今回も同様。

「一目見た時から好きでした」

 そう大き目な声で言って、頭を軽く下げた長い髪が下に垂れて、顔が分からん。別に僕としては見た目が100パーセントなんて主義を持っている訳じゃないが、一目見るくらい悪くはないだろう。顔も見ない相
手を断るのはどうかと思うし。

「どこで一目見たのか教えてもらっていいか?」

慣れとは怖いものだ。たぶん、僕みたいに毎日のように告白を受ける者はそうそういないだろう。だから、テンプレのようなセリフに対して、少し意地悪だと思うだろうが瞬時に反撃が出来るようになった。
 こうして、反撃されることなど微塵も想定していなかった相手は石造のようになって固まる。もしくは、適当に話を作る。この2つのパターンのどちらかである。ちなみに、多いのは前者。
 頑張って他県からわざわざおめかししてきた女子もさっきまでの威勢はどこへやら。
数秒間、時間が止まったかと思うと、

「ごめんなさい」

顔を真っ赤にするとそのまま彼女はどこかへ走り去ってしまった。

「…………やりすぎたかな。こんどはもっと…………何というか真摯に対応しようかな」

 こう見えてか知らないが僕のハートは人よりもかなりの小心者で結構時間たたないと罪悪感が消えてくれない。ちゃっかりふった人の顔なんかもかなり覚えている。
 街中で見かけたり、学校で見かけたりすると気まずくて相手の顔を直視することが出来ない。
 生まれてからいくらの人を不幸にしたのかと思うと、罪悪感のない日はない。
 今は4月下旬。ギリギリ咲いている桜がこうも虚しく見えるのは僕の心のせいだろう。
 こんなことなら、別にブサイクでも良かったんだけどなんて言えば、きっと非難轟々だろう。下手したら、ジョンみたく暗殺されかねない。
 脳裏にはまだ半泣きの少女の後ろ姿が焼き付いて離れない。

「…………これだからリアルは嫌なんだよな。妄想なら、幾分ましか。だから、僕は作家になったんだけどな」

 妄想ノートを適当にストーリーを付けたら、いきなり小説家デビュー。一作目が空前の大ヒット。実写映画化までされた。当然、なんなら主人公役をやってみないかとオファーはあったものの作者としての顔出しは勿論、NGなので出るはずがない。これ以上、僕の顔が世間に出回っても僕としてはメリットがない。

――勇者よ。あなたは選ばれました

 ただでさえ、気分が沈んでいてえらく憂鬱な脳内に直接声が響いてきた。声の主は大層偉そうだ。なんとなくイラつく。
 慌てて辺りを見渡しても、公園には僕を除き誰一人としていない。

「誰だ?」

――ではこちらに召喚いたします。ようこそ世界へ。Hellow World

「おい。こっちの話を聞けよ。完全に無視かよ。言葉通じてますか?」

 足元になにやら怪しげな魔方陣が赤い光によって描かれ始めた。
 最近、ヲタク業界では有名を通り越してテンプレとまで言われている異世界召喚ではないだろうか。いや、そんなはずないと否定したい。だが、僕の本能は大人しく認めろよと言っている。

「ぶっちゃけありえない」

 某有名アニメの台詞が一番に出る時点で僕の存在自体がバグっていたのだろう。
 だが、ある意味ではこれは僕への真なる人生の始まるでもあった。別に始まらなくとも、そこそこな人生を送ったけども。ある意味、余計なお世話だ。


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