インフルエンザに囚われたラノベ作家のパパを助けに

御社 欅

第三章 王国

コボルトを仲間にして、少し歩くと、また空間がぐんにゃりと歪んだ感じがして、石畳の街道となり、大きな城門が現れた。

「手間をかけさせたの。ここが、わしの王国じゃ。」

城門が、開くと中から、白い馬に跨った三騎が駆け出してきた。

わお、白馬の王子様?

「王様、ご無事で?」

「ああ、あかりが、一緒にいてくれたからな。」

「あなたが、あかりさまですか。王様をお守り頂きありがとうございました。また、今回の戦いにご参戦頂き、感謝致します。私は、エバンズ・リヒトラウス。エバンズとお呼び下さい。」

そう早口に言った騎士は、甲冑をとると長い金髪の色白の青年だった。

なかなか、ナイスなイケメンさんじゃないですか。

パパは騎士の顔の設定には、こだわりがある。

一緒に前に出たもう一人の騎士は、甲冑を取るとブロンズの巻き毛のショートカットが似合う陽に焼けた、いかにも英雄然とした武骨な顔立ち。

でも、私の方を見ようともせず、王様の耳元で、手をあて何かをささやいた。

彼のちらっとみた視線の先に、馬車があったので、

「お二人に、馬車をご用意させて頂いております。」

なんて事を言っていたのかもしれない。

「彼は、ロドリゲス・ミシュランディア。ロドリゴと呼んでやってくれ。」

名も名乗らず、それ以上、言葉を発しようとしないロドリゴを王様がフォローする。

三人目はバイキングの毛深い男かな。

しかし、エバンズの後ろに隠れていたもう1人は、私より小柄な女性だった。

私と同じくらいの歳かな?

他の二人と較べると、肉体戦に向くようには見えない。

「私は、エリザベス・セーシャレン。リサでいいわ。」

そう言って手を差し出してきた。

小さな手。握ると、あかりの手にすっぽりと入ってしまう。指も細い。

「では、出発するか。」

私と王様は、馬車の前に乗り、二匹のコボルトは後ろの荷台に乗り込んだ。

三人が、後から、馬に乗ってついてくる。

私は、執事のセバスチャンです。

先程、馬車の横で白い革手袋を外し、フェルト帽を取って丁寧に挨拶をしてくれたセバスチャンが、馬車の手綱をとっている。

「セバスチャン、戦況はどうだ。」

「芳しくありません。前線の火力を増強しましたが、敵の進行速度が、徐々にではありますが、各地で次第に早まっている可能性があるとの報告です。」

セバスチャンは、言葉を選びながら、そう答える。

「そうか。」

王様の顔がくもる。

「一刻も早く、次の手を打たれた方が良いかと。」

前に向いていたセバスチャンの視線が、私に注がれた。

「そうじゃなあ。いずれにせよ、出発は、明日の早朝じゃ。今日は、体力回復と明日からの準備に充ててもらおう。」

って、魔法でも、武器でも、満足に戦えないような私が、こんなシリアスな状況なとこ来ちゃって、良かったんだっけ?

なんか、急に、帰りたくなってきた。

「着いたぞ。」

王様の言葉と共に、馬車は止まった。

「城は少し離れているから、今日は、この狩の館で、休むことにしよう。」

森の中にある広大な敷地。

玄関の扉を開けて目にするエントランスホールとそこにぶら下がる巨大なシャンデリアの大きさに驚いた。

「まずは、腹ごしらえじゃな。」

一同は、一階の正面奥にあるダイニングルームへ直行した。

コボルト達だけは、食べ方が汚いので、少し離れたところに食事スペースを設けてもらい、他のメンバーは、広大な長テーブルに着席する。

そこへ、次々と料理が運ばれて来る。

わあ、このカボチャのスープうま、浮いてるクリスピーが、また絶品。

って、このアーティチョークのサラダのドレッシング、神!わ、ここで、鴨ローストのオレンジソースがけなんて出すっ。

サラダ食べ過ぎた。

え、まだ、トラウトのホワイトソースがけも。ローストビーフは、もう無理だって。

チキンの香草焼きタイミング悪いよ。

あ、デザートぉ!!きゃー、チョコレートムース系だけで、五種類もあるよ、りんごパイも捨てがたいし、フランボワーズのシャーベットも一口食べたい...。

つい自分の世界に入ってしまった。

食事がひと段落し、少し反省。

周りも黙々と食べていたから、私に合わせくれたのだろう。

しかし、夢の中で、こんなに苦しくなるまで食べたのは、多分、初めてだ。

きっと、HP、MP満タンだと思う。いや、絶対。

「明日は、夜明けと共に、行動開始。これからの行程、作戦は、道中で、三人からあかりに、おいおい説明してもらうこととする。」

「セバスチャン、あかりを部屋へ案内してやってくれ。」

「はっ。あかりさま、こちらへ。」

食べ過ぎたなあ。まだぱつぱつなお腹をさすりながら、セバスチャンについてゆく。

「こちらで、ございます。」

天蓋のかかった広いベッド。

窓ぎわに置かれた緑のビロード地の大きなソファー。

窓から、部屋に差し込む月光が、赤い絨毯を明るく照らしている。

「それではゆっくり、お休み下さい。」

そう言ってセバスチャンは、踵を返した。

夢の中で、月を眺めるのは、珍しいな。

ソファーに、横になって満月を見上げる。

大丈夫かな。

本当に私は、期待された役割を果たす事が出来るのかな。

トントン、その時、扉を小さく叩く音がした。

「誰?」

「りさ。入っても良い?」

「は、はい。」

そう言って慌てて身を起こし、ソファーに座った。

「まだ、起きてた?」

「あ、うん。」

「私の事、覚えている?」

リサは、ソファーのあかりの隣にふんわりと腰かけながら、突然、そうきいてきた。

「え!私が、あなたのこと?」

「そう。ただ、もうだいぶ前の話しだから、忘れちゃったかも。」

「ごめん。」あかりには、その記憶が全然浮かんでこなかった。

「そっかあ、じゃあしょうがないね。」

「でもね、今日みたいに、月の綺麗な夜。ホタルブクロの花が沢山咲いていて、蛍を入れて出かけたの。」

「あの時のあなたは、本当に良くやったわ。今は、忘れてしまっているかもしれないけど、きっとすぐに必要なことは思いだす。」

そう言うと、サラはあかりの両手を握り、あかりの瞳を覗きこんだ。

細っそりとした冷たい手。

青く澄んだ瞳。そう、青い月夜の晩が、きっと、私の過去のどこかにあったのだ。

すぐそこにあるはずなのに、どうしても触れることの出来ない記憶。

「明日から、頼りにしてるわ。よろしくね。リサはそう微笑んで、また、ふわっとソファから離れると部屋から静かに出て行った。」












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