インフルエンザに囚われたラノベ作家のパパを助けに

御社 欅

第二章 コボルトとの戦い

私と王様はどこかの町角にいた。

アスファルトに舗装された道路の両脇には、生垣や、ブロック塀が続く住宅街だ。

うちの近所にも似ている。

「なんだ、普通の街じゃない。」

横を向くと、小人だった王様が、普通の大きさになっている。

でも、背はそんなに高くない。

クラスで並んだら前から数えた方が早い私とそんなに変わらない。

「思考の浅い所は、リアルの残像が、大きく影響する。そのため、現実に近い姿になっているのじゃ。」

なんか、ここに来たら、言葉遣いも王様っぽくなった。

ただ、この町並みだと王様のコスチューム、いや、失礼、服装は、相当浮いて見える。

私の思った事が伝わったのかは不明だが、王様は、言った。

「すぐに変わる。」

確かに、少し歩くと空間がぐんにゃり歪んだような感じがして、ヨーロッパの中世の田舎のような風景に変わった。

しかし、なんかぼこぼこして、歩きにくい。

「なんで、こんなぼこぼこしてるの?」

「これは、馬車のわだち、つまり馬車が通った後じゃよ。」

パパ、変なとこリアル過ぎ。

おっと、しかも、馬糞まで、あちこちに。

普通、そんなとこ意識しないでしょ。

馬の糞を踏まないように足下に注意しながら、歩く。

うわ、なんか、変なのが三匹、向こうからやってくるけど。

「何あれ?」

「あれは、コボルトじゃ。」

「短い槍みたいの持ってるけど、襲ってこないわよね。」

「襲ってくるぞ。」

「どうすれば?」

「戦うのじゃ。武器か、魔法で。」

って、武器持ってないし。

「王様は武器か、魔法は?」

「わしは、戦えん。」

「その杖は?」

「ただの飾りじゃ。」

胸を張って言う。

そこ、偉そうにするところ?

「王様って普通、強いんじゃ?」

「わしはわしの国で人に物を頼むのが一番上手なんで、この役回りとなった。」

あちゃー...。

「逃げるのだめ?」

「逃げたら追いかけて来るぞ。」

「魔法は、どうやって使うの?」

「ほら、あるじゃろ、呪文とかが。」

「え、そしたら、ファイヤー。」

とりあえず、適当に。

ズンドコ、ズンドコ、ズンドコ、ズンドコ、タイコのリズムが流れ、うーー、ファイヤーというような絶叫のBGMとともにサボテンが揺れた。

何これー、嫌すぎ。パパ、今度会ったら絶対どつく。

「あ、魔法にはカテゴリー選択があるからの。確か、いま、スペイン語になってたかな。そこに指で星型を描きなさい。」

宙に、星型を描くとカーソルが現れ確かに魔法のカテゴリーが、スペイン語になっている。とりあえず、一番上に書かれているのを、コボルトに指差し、大声で叫ぶ。

「フエゴ!」指先から焔がほとばしり、コボルトに向かっていく。

フギュヤァという奇妙な叫び声を上げ、焔が当たったコボルトは、逃げていった。

焔を見て、残り二匹となったコボルトがたじろいている。

今のうち。

私は、もう一度、宙に星型を描く。

そして、カテゴリーを指でスクロールさせると、なんとそこに、ドラクエを発見!

カテゴリーをドラクエに設定。

余裕に満ちた表情で、指を、コボルトに向け、

「メラ」

何も起きない。

「え?」

「イオ」

何も起きない。

「あれ?」

「ヒャド、ヒャダルコ、ヒャダイン」

全く何の変化も無い。

「先程の魔法でMPが尽きたようじゃの。」

そういう事は早く言ってよと王様を睨みながら、慌てて星型を描く。

先程の私の無駄な叫びで我に返ったコボルトが、武器を振り上げ警戒しながらジリジリ距離を詰めてくる。

カテゴリーをスクロールさせると、

ALLというカテゴリーがあった。
それにストップし、

いちばん上にある唯一白くなっている魔法を唱えてみる。

「ラ・メーハ」

あたりがみるみる明るくなり

強い日差しの下、
目の前に白い砂浜が現れ、
寄せては返す波の音。

ザザーッ、シュルシュルシュル
ザザーッ、シュルシュルシュル

潮風が気持ち良い。

うーん、なごむ。
王様も気持ち良さそうだ。

って、今、戦いの最中だった。
って、コボルト達もうっとりしている。
そして、優しい眼差しをこちらに向けた。

王様が一言。

「仲間になるのじゃ。」

こうして、コボルト二匹が仲間になった。



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