このバッドエンドしかない異世界RPGで

無限 輪

第三話:魔女裁判そして

 あ、はじめまして。仙堂茜です。今回はわたし視点になりますので、意気込みの程を述べたいと思います。この国の魔女裁判とかやってる奴らは……絶対滅びるべきです。何故かって?ふふふ、だって異世界転移されたばかりのわたしを捕まえて殺そうとしてるんですよ?殺意がわかないわけないじゃないですかー。あぁ……なぜチートスキルを持って転移されなかったのか。そうよ!せめて魔女らしくチート魔法が使えたらすぐにブッパしてゴミにしてあげるのに!はぁ、はぁ……まぁ無い物ねだりをしてもしかたがないわね。とりあえず今のこの状況でもし助かったら……この国を潰すわ。




 どうしてこうなってしまったのか。

 今はとても後悔している。

 【Changes Of The Season+チェンジオブザシーズンプラス】をゲームショップで見つけて安かったので購入。そしてどっぷりハマったの。

 あまりないタイプのゲームで、最初はクソゲーだと思った。けど、プレイしていくとキャラが開放されたり、シナリオをコンプリートしたい衝動にかられて、ついついやり込んでしまった。

 キャラENDに納得出来なかったのもあると思う。

 それで、やっとの思いで成し遂げた、シナリオツリー100%の後の二択は、トラウマものだと思うの。なによ、今の世界でバッドエンドって……そんなのごめんだわ。

 そして迂闊にも魔女狩りの女兵士に捕まったわ。まさか選択肢が出ないなんて……なかなか手の込んだトラップね。わたしが悪いんじゃあないわ。

 いきなりあの状況で、木の陰に隠れれる人なんていないわ。いたらもうそれは神よ!

 それで、牢屋にぶち込まれて、衣服を剥がれて身体の隅々まで調べられたわ。魔女の刻印を探すとか、バカじゃないの?女兵士しかいなかったから、わたしの心はなんとか耐えれたわ。

 だから、今のわたしは全裸待機よ。ええ、ボロボロのカビでも生えてそうなベッドで全裸待機よ。毛布すらないのよ。そこで全裸待機よ。

 大事な事だから3回言ったわ。だから誰か助けて!

 異世界2日目、今日は朝から牢屋の中に女兵士が拷問器具を沢山持ってきたわ。全部集まった所で片っ端からストレージに収納してやったわ!

 あはは!あいつらの引きつった顔ったらなかったわ!必死にわたしを止めようとしてる姿には、少し溜飲が下がったわ。

 ふん!わたしを拷問しようったって無駄なのよ!もちろん収納する度に無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄って言ってやったわ。

 ちょっと、某人気漫画のキャラみたいになったけど、いいの。ここは異世界だし、牢屋の中には悪霊がいるものだから、物が増えたり減ったりするのは普通なの。

 昼過ぎ、昨日から水しか与えられていないわ。死んだら臭くなるからとか、わかっていたけど殺す気満々ね。

 あぁ、と、牢屋の天井を仰ぎ見る。それから、衣服を剥がれる時にとっさにストレージにしまったスマホを見てみる。待ち受け画面は、昨日の夜に変えていた家族の写真。

 家族と離れてまだ2日程しか経ってないのに、凄く長い間会っていない気がする。寂しさと不安が、今頃になって少しずつ、うねりとなって押し寄せてくるのを感じた。

 電波は何度見ても圏外。

 誰も知り合いのいない世界で、助けなど期待する方が間違っていると、頭ではわかってはいるけど……

 電話帳の中、1人の人物の名前を見る。

「はぁー……こんな事になるなら、やっぱり付き合っておくべきだったなぁ……」

 そう、わたしは昨年の11月に人生で初めて男子に告白された。違うクラスの同級生で、学年でみても間違いなくイケメンの部類の男子。

 不満だった理由も無いし、むしろわたしにはもったいないくらいの申し出だった。

 でも断った。

 だが断る!というようなギャグテイストはみせてはいない。単純に話しをした事も無かったし、男子とお付き合いをするという事自体が怖かっただけ。

 いったいわたしのどこが好きになったのだろうか?その時から考えずにはいられない、もはや命題のように感じている。

 2年になって同じクラスになった。張り出された彼の名前を見ただけで、わたしの心が少し跳ねた気がした。

 国生新くん。

 告白を断った手前、最初は話しをするのもぎこちなかったのだが、今では普通に仲がいい。話しが合う事もあり、男子の中では1番心を許せる存在になっていた。

 今、告白されたら、たぶん受け入れると思う。

 でも、もう遅い。彼はわたしに対して特別な感情を、もう、持っていないように感じるから。

 国生君に電話をかけてみる。

 もちろんつながらない。

 スマホをストレージにしまい、ベッドにダイブする。バキバキ!とかなりヤバい音がなったがスルーする。うつ伏せになり、震える唇で彼の名前を呟いた。目の端にうっすら涙が浮かぶのがわかる。

「もう一度、好きって言って欲しかった……な」

 夕方、わたしは質素なクリーム色の貫頭衣を頭から被せられた。もう全裸待機は終わりらしい。そんな冗談を言う気力も無くなってきた。

 ゲームで見た感じだと、この後、大勢の人で囲まれた広間で魔女裁判がおこなわれる。いよいよ、人生のタイムリミットが来てしまう。

 どうしても足の震えが止まらない。

「おい!見てみろよ!魔女が震えているぞ!」
「あはは!本当だ!」
「今から何が起こるかわかるか?ふふふ」

 わたしを嘲笑う声が聞こえる。

 わたしが何をしたというのか。

 広間に着くと罵詈雑言を浴びせられた。

 無実だと訴えたが、更に嘲笑は大きくなった。

「静粛に!」

 広間はシーンと静まり返り、裁判長らしき壮年の女性の声だけが響く。

 この広間は月守の塔の最上階にあり、吹き抜けになっていて、大きさは体育館の半分くらいだろうか。

 わたしの後方を囲むように見物人がいて、正面に裁判長、その横に嫌でも目に入る火葬装置がある。

 火葬装置は中心が人1人入れる円があり、その周りに油がかけられた木片が組み敷かれている。人を焼くというよりも炙り殺すという残酷な仕様のようです。

 まだ火もついていないそれを見てからというもの、動悸が激しく、冷汗が出てくるのがわかる。たぶんわたしの顔は今、誰が見ても蒼白だろう。

「只今より、魔女裁判を開廷する」

 広間はざわざわと騒がしくなる。ここに集まった者は魔女裁判がひとつの娯楽であるかのように気楽にしているように見える。

「あなたは魔女ですか?」

「いいえ、違います」

 お決まりの質問を、もちろん否定する。

「あなたは拷問器具を魔法で消したと聞いています。間違いは無いですか?」

「うっ」

 そうきますか……確かに消したように見えたかもしれない。魔法ではなくスキルだが。

「どうなんですか?」

 裁判長は凄い顔で睨んでくる。

「それは……間違い、ありません。でも、わたしは魔女ではありません!」

 おおー!とか、やっぱり!とか、嘘をつくな魔女め!とか、見物人から声が上がる。だってそう言うしかないじゃない。

 裁判長は肩を竦め頭を左右に振り、やれやれと、仕方ないとでも言うように判決を下す。最初からやるつもりだったクセに!

「それでは、”聖火“であなたの真偽を問いましょう。もし、あなたが魔女ではないのなら、火傷一つ無く助かるでしょう。しかしもし、あなたが魔女であったなら、全てを焼き尽くされるでしょう」

 こちらへ、と、火葬装置の真ん中に連れていかれた。

 もう、無理ね。

 わりと、つまらない人生だったかな……

 ”聖火“が端につけられ、徐々に燃え広がる炎。

 それを見ながら人生の終わりを覚悟し、なんとなくストレージからスマホを出して胸に抱いた。

 そして広間の全員が見る中で、それが鳴り響いた。


 ピリリリリ!ピリリリリ!ピリリリリ────。


「えっ?」

 鳴ってる。わたしの手の中から音が、確かに聞こえる。

「おい!魔女が何かしてるぞ!」
「取り押さえろ!」

 女兵士達が恐慌しながらも近ずいてくる。

 しかし、それどころではない、異世界でスマホが着信しているのだ。こんな不可思議なことは無いよ。

 なぜ?誰が?そもそも電波は圏外のはずなのに。

 戸惑いながらも、わたしはバチバチと放電するスマホの画面を見た。不思議と痺れたりしないし、痛くもない。






 着信中
 国生 新くん






「嘘……こん、な……奇跡が……」

 奇跡でもなければこんな事起こらない。死にかけて都合の良い幻でも見てるのか……

 わたしは回らない頭を振って、急いで電話に出た。

「国生……君……?」
「おう!やっと出たな。ずっとかけてたんだぞ」

 間違いない。国生君だ。

「うん。ごめんね。なんだか頭が回らなくて」

 回りを炎で囲まれつつある状態で冷静さなど持てるはずもなかった。ましてこんな奇跡まで起きればなおのこと。

「あー。月曜日学校休んでたろ。心配した。だから、もうすぐお前の所に行くから」

 あ……心配してくれたんだ。死の間際だというのに少し頬が緩むのがわかった。家に来てくれるつもりなのかな。優しい所……あるよね。

「ううん。いいの。国生君の声が聞けただけで……わたしの所には来れないよ……」

 来れるはずが無い。だってわたしがいるのは遠い遠い異世界だもの。どう頑張ったって来れないよ。それこそ神ってないと……

「はぁ?何言ってんだ?安心しろ、もうすぐ着くから、それから目を閉じてろ。びっくりするぞ」

 ふふふ。もう家の近くまで来てくれてるんだ……わたし実は幸せ者かも。つまらない人生でも無かったかも、ね。

 そうして全てを受け入れるつもりで、座り込んで目を閉じる。そして電話越しの彼の姿を夢想する。

「目を閉じたよ。ねぇ、新君って呼んでいい?」

「な、なんだよ急に……いいけど、それなら俺も茜って呼ぶぞ?」

「うん。いいよ。新君……奇跡ってあるんだよ。知ってた?」



 言っていて目に涙が溜まるのがわかった。
 そして────。


 ドドーン!!と強烈な爆発音の後パパーンと破裂音が広場に響いた。

 目を閉じていても感じた眩い光に広間は照らされ、辺りは騒然となる。パニックである。見物人の悲鳴が、怒声が、恐怖の光景が広がる。

 女兵士達も右往左往さまよっている。


「奇跡か、いいな!そういうの好きだよ」


 その声は電話越しに聞こえる声ではなかった。

 真横で聞こえた聞きなれた声に、バッと顔を向けようとしたところで、ふわっと身体が浮いた。

 えっ?と、見えたのは自分を抱きながら優しく微笑む新君の顔だった。

「あ、新君……なの?」

 彼はコクリと頷いた。

「助けに来た」

 ぶわァっと、全身が波をうった。

 震えた。身体が……心が……震えた。

 奇跡が起こったと思った。

 だって、そうでしょう?

 新君がここにいる。

 わたしを助けに来たと言ってくれた。

 こんな遠く、異世界まで。

「跳ぶぞ」

 わたしを抱いたまま、彼の足元がスパークしたと同時に、一足飛びに炎を飛び越えると、そのままスタスタと通路へ歩いて行く。

「神ってる……」

 信じられない跳躍力。もう炎は身の丈よりも高くなっていたというのに、簡単に飛び越えた。

 驚きというよりも、呆然として呟いた。

 言いながら信じられないという気持ちで、信じられないぐらい安心して、不思議と信じられないぐらい心が暖かくなるのを感じた。

「隠密のスキルを使ってるから、たぶんよほど注意深く探さないと俺たちの事は気がつかないはずだ」

 超人的な行動をとったというのに、なんでもないかのように振る舞う彼が頼もしい。

 助かったのだと実感したと同時に、わっと感情の渦が溢れ出て新くんの首筋で嗚咽が止まらなかった。こんなに恐怖を我慢していたのか、と自分でも驚いている。でも、本当はわかっていた。

「ひっぐ……怖かった……本当は怖かったの」

 悪態を付いたりして誤魔化していたが、捕まった時から、ずっと、不安だった。怖かった。

 わたしは弱い。肉体的にも、精神的にも。でも認めてしまったら、折れてしまいそうだったの。

「そうだよな……怖かったよな。でも、よくがんばったな」

 頭を撫でながら褒めてくれる言葉を耳にして更に泣いた。わたしの無意識の頑張りをわかってくれていると感じた。

「でも、どうして?」

 よく見れば彼は漆黒の騎士の様な鎧を着ていて凄くカッコイイ。それに、お姫様抱っこ。今更ながら顔が熱くて頭が沸騰しそうなの。

「好きな女を……茜を助けに来るのに理由なんかいらないだろ?」

 ボッ!と音がなりそうな勢いで全身真っ赤になったと思う。あうあうあ……もう何も言葉にならないのに、彼の言葉は終わりでは無かったの。

「それに……お前がどこにいようと、たとえ迷惑だろうと、俺は、お前が1番助けて欲しい時に駆けつけて力になる。俺がそうしたいからだ」

 ビクビクっと痙攣して白目を剥きかけたわ。彼の首筋に顔を埋めていたから顔は見られていないはず。危ない危ない。彼はわたしを幸殺しようとでもいうの?

「大丈夫か?なんか痙攣してないか?俺がもう少し早く助けに来れていれば魔女裁判なんてさせなかったのに……クソっ!」

 何か、勘違いしてるみたいだけど、乙女的には助けに来るタイミングは、これ以上ないぐらい最高だったわ。グッジョブ過ぎてグッチョリよ!言わないけどね。乙女的に。

「とりあえず森の中で一旦隠れよう。絶対見つからない隠れ家を作って来たんだ」

「うん。もう、好きにして……任せるわ」

 実は安心感からの脱力か、身体にあまり、力が入らない。今は少しでもこの幸せな時間を感じたいと心からそう思ったの。

「好きにって……その格好で言われると、なかなかこう、こみ上げてくるものがあるんだよな……」

 はぁ?その格好って……と、ここでやっと自分の服装に気がついた。そうだ!今わたしは、ボロボロの貫頭衣しか身に付けていなかった。

 横から見るとほぼ丸見えである。意外とエロいよな。って聞こえた気がして、羞恥から意識を飛ばしかけたわ。

「今更かもしれないけど、あまり見ないで……」

「お、おう。俺から離れたら見つかるから、しっかり捕まっていてくれよ」

 視線をきょろきょろと忙しなく動かし顔が赤くなっている新くんは、ちょっと可愛かった。

 もう新くんになら抱かれてもいいかな、むしろ抱いて!って思うのは状況的には仕方が無いの。うん。決してわたしがエロいからでは無いの。

 そんな事を考えながら彼にキツくしがみついた。そうしたかったから。彼も腕に力を入れて強く抱き締め直してくれた。

 密着する身体に興奮したのか、彼の首筋にわたしは口を付けた。んっ。と少しの戸惑いと気持ちよさそうな声が聞こえた。わたしは力いっぱい吸ってキスマークを付けた。わたしのものになって欲しくて。

 いつの間にか彼への気持ちが膨れ上がり、抑えられなくなった衝動なのかもしれない。今ならはっきりわかるわ。わたしは新くんが好き。大好き。わたしは幸福感に浸って、いつの間にか眠りについていた。

 


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