世界は何も変わらない。変わったものはルールだけ。
前を向いて。これからのこと。
18:09。
空は赤く色づいている。あれから30分近く寝てたみたいだ。気分もさっきよりはまぁ良くなったし、そろそろ顔見せるか。
「…んで、そっから魅流連れて2人で研究施設から出て1年間くらい一緒に暮らしてた。」
あぁ、まだ話してたんだ。まぁ、一言二言で終わるような薄っぺらい過去じゃないことは確かなんだけど。てか電気くらいつけなよ。外に光が漏れる心配なんてないんだし。
「そ。せんせーが僕を養子に迎えてくれて、2年くらい前までせんせーの家でね。今は一人で暮らしてるけど」
心配いらないよ、せんせ。もう体調は良くなったし。つか結局どこまで話したんだろ?
「……」
絶句、って表情だな分っかりやす。この分だと一通り話したみたいだね。まぁスカウト枠だもんなぁ、剣道以外は普通の家庭で暮らしてきたんならそりゃそういう反応だわ、当然。
「まぁ俺もだけど、先生の人生も相当だよね。だからこそ差し伸べられた手を取ったんだけど」
憐れみなんて必要ない。同情の根本なんて、優越感からのお情けと同意義だ。狗の餌にでもしてろよそんなもん。 
俺だけの為じゃ無かった。自分も一緒に救われたかったから、先生は俺に手を伸ばした。
ギブ&テイク。持ちつ持たれつ。
シンパシーならぬエンパシー。
「魅流が別棟に隔離されていたのは、身体能力や脳を調べる為だけじゃねぇ。こいつが話した、話さざるを得なかった記憶の内容に、あの研究機関が目をつけたからだ。」
「俺の記憶が正しいものであると科学的に証明できれば、つまりそれは異世界や前世、魂といった非科学的なものが存在するのだと証明できる。つまり」
「……利益の、元になるってこと」
「ピンポーン。正解だよ」
研究が成功すれば得た利益は天川にそのまま入り、そうなれば天川に研究成果を認められる。結果、施設拡大さらには自分たちの存在を認められる、と。
その研究対象が俺じゃなけりゃ、思うところなんてなんにも無いし、興味さえも微塵たりとも湧かなかったんだけど。
「こんなにいたいけな子供を実験動物にしてまで名誉と金が欲しい、だなんて。」
醜悪で卑劣で私利私欲に塗れた救いようの無い下種野郎だね。産まれてきた意味も生き続ける価値も存在する理由も無いんだろうから、せめて誰にも迷惑をかけずに理解も認知も認識もされず、少しずつ少しずつ腐り落ちて朽ち滅んで死んでいけばいいのに、って心の中でずっと罵倒してた日々が懐かしいな。
そうでも思わないとやってらんなかったし。もちろん態度にも表情にも出さなかったけど。
「いたいけ…自分で言うのか」
「なぁ〜にぃ、先生。俺の写真いっぱい持ってるくせに?」
「!?おいなんで知って…あ」
「え、ほんとに持ってんの。マジか毎日会ってんのに」
俺のこと好きすぎかよせんせーやべぇな。
まぁ悪い気はしないけど!
「…なんで、そんな前向きになれるんだ」
「あ?」
「理不尽だって思わないのか?天川を、人を…捨てた親、を、恨まない…のかよ。なんでそんな、笑い事みたいに」
…いや笑い事では無いんだけど。
あんな目にあっても笑って済ませられる奴がいたらそりゃ単に頭沸いてるだけだ。正気じゃありえねぇ。
「理不尽ねぇ。災害、犯罪、性別や人種による差別、立場、地位、血筋、人ひとヒト。理不尽なんて今更だろ。現にこの状況だって理不尽だ。で?それって、怒って嘆いて悲しんで恨んで叫んで泣けば、何か変わるか?」
変わんねぇよ変わらなかった。
「そんな行為に意味なんてねぇだろ。なら現状を改善する為にどうすべきかを検討すべきだ。考えて考えて考えて考えて、答えを見つけて実行すべきだ。そもそも」
「馬鹿がメソメソしてんなよ。バカは明るくて能天気でポジティブだって相場が決まってんだろうが」
何も考えずに嬉しそうに尻尾振ってろよそれがお前の仕事だペットめ。
「…存在価値のある人間を見つける。親が子供に望んでることだ。せんせーだけで十分だって思ってたけど」
「お前には剣の腕と直上型馬鹿っていう利用価値があるが、それだけだ。」
今はまだ、な。
「お前になれるかよ?俺にとって存在価値のある人間に」
「っっ!な、ってやるっ。オレが!誰よりも先にだぜ!」
「いやもう既にせんせーいるけど」
「あ」
話聞いてんのかこいつ馬鹿か?馬鹿か。バカ犬だわ。
「くっくっ…。さぁ、そろそろ飯にするか。つってもカレーだが」
「ご飯の後は広範囲の情報収集。それと今後の方針を話し合うから」
話し合うって言うか、伝えるだけだけと。こいつの反応如何によっては少し時間がかかるが、まぁ大丈夫だろ。多分。
18:52。
レトルトカレーなんて久しぶりに食べたな。せんせーも俺も自炊してるし手料理以外はほとんど食べないから、ちょっと新鮮だった。せんせー料理めっちゃ上手いんだよね、俺もそこそこだけど。
「さて、食べ終わったことだし。とりあえず今後の方針伝えるから。ちゃんと聞けよ、桐生」
「なんで念押したんだよ!?」
聞かねぇからだよ。
「とりあえず、ある程度騒ぎが収まるまでここで待機な。で、その後は生存者を探す、が但し」
さぁ、て。どんな反応が返ってくることやら。
「最大4人までだ。それ以外は知らん。」
「…どうやってその4人を選ぶんだ?」
…お?意外とすんなり受け入れたな。
「意外だな、桐生。てっきりもっと反発するかと思ってたんだが」
だよな、俺もそう思ってた。こいつクラスの中心っぽい感じだし、友達いっぱいいるんじゃねぇの?スカウトなんだから剣道部にも入ってるんだろうし。
「いや、こんな状況なんだし。人数が増えればそれだけ食料の消費も激しくなるから、仕方がない事なんだろうなって。それに、リーダーの指示には従うさ」
「…リーダー?」
そういえばトップ決めてなかったな。まぁせんせーか俺のどっちかだけど。
「最初2人に会った時は、魅流は天川先生に助けられたんだろうなって思ったけど。でも、魅流がリーダーなんだろ?グループを作るんなら」
「…先生どうする?俺も先生も上に立つ事は出来るよね。」
「トップなんてがらじゃねぇよ」
それは俺もなんだけど。
「俺がトップだと、人間が相手の場合見た目でなめられるだろ」
少なくとも初見は。
「んなもんどーとでもなる。俺が後ろについてりゃ、問題ねぇな。それに、相手の油断誘って交渉で優位に立つことだってお前にゃ簡単だろ」
簡単かどうかは定かではないけど、できないこともないな。そう考えると俺がやった方が逆に相手を操りやすいか?
「おっけー分かった。俺がやるわ」
よし次、4人の選別方法だっけ。
「人員の選別はしない。校内の状況を管理室にあるモニターで確認して、最も安全に救助できる場所を選択し救援に向かう。性別も年齢も考慮しない」
まぁ出来ればスカウトされた生徒が望ましいけど、そこまで期待はしない。
「で、だ。騒ぎが収まるまでっつったけど、いつ収まるかが分からない。だから食料が尽きる前に、物資の調達に行かなきゃならない可能性もある。その場合は」
「食堂に調達しに行くのか?」
「いや、食料が備蓄してある倉庫に行く。せんせーが居るから。」
「なんで天川先生が居ると倉庫なんだ?いっぱい食うから?」
お前さっきせんせーよりもカレー食ってたろどの口が言ってんだ馬鹿。
「ちげーよ。天川学園で働いてる財閥関係者には、全員にカードキーが与えられてんだ。それ使えば出入り自由なんだよどこでもな」
そーそー。お、そのブラックカード久しぶりに見たな。
ま、この情報は出回ってないから知らないのは当然だけど。
「最低限調達しなきゃいけない物資は飲食料とせんせーの荷物に、車。余裕があれば武器も」
「車がいるのか?学園から出る必要なくね?」
「この学園に無くて、だが生きるために絶対に必要なもの。思いつくか?」
「…、そんなのあるか?」
「そう、無いんだよ。そしてそれは誰しもが思い至ることだ。この学園は知名度が高いからな。つまり、物資を求めて生存者がここへと集まってくる。すると、どうなる?」
「奪い合い、か…」
「然りだ。だからこそこの学園から出る必要がある。出来るだけ早くな」
ここで家族に会わなくていいのか、という質問をしないのには理由がある。スカウトされる条件の1つが、身よりがないことだからだ。才能はあるが、しかし家族がおらず経済的に厳しい者に対して、天川学園が金銭的負担をする事で教育方針である、''未来ある子供たちの才能を開花・成長させる''を全うしている。
そういった理由からも、救助者はスカウト枠が望ましいんだが。
「え、でも天川先生の車は?」
「せんせー今日に限って二輪だから」
「えぇぇ…」
「仕方ねぇだろうがよ」
「そうだね、仕方ない。風に当たりたい気分だったんだもんね」
「……」
まぁいい過ぎたことだ。うだうだ言っても変わんないし。
「車は学園が所有してる大型車を拝借するとして」
いや本当にこの学園は色々揃い過ぎてるっていうか。生徒送迎用の車が50台以上あるなんて、普通じゃ考えられない。
「せんせ。あの車って確か、そのカードキーで動いたよね?わざわざ鍵探さなくても大丈夫でしょ?」
「ん、あぁ。そういやそうだったな。運転したことねぇけど。大丈夫だろ」
「まじかよ!すっげぇな天川学園!?さすがだわぁ」
いすげぇってか無駄だろ実際。絶対いらないわそんなシステム。いや、この状況ではありがたいけど。
字の通り本当に有難いぜそのシステムに感謝する事なんて。
因みにせんせーの運転技術については何の心配もしていない。二輪だろうが普通だろうが大型だろうが余裕で運転出来るからまじハイスペック流石だわ。
「車を盗ったら向かう先は」
「俺の家だ」
「なんで?」
「天川だから」
「…あぁ」
べんり。天川べんり。一言で説明できちゃう。
これぞ天川クオリティ。
「とりあえずはそんなものかな。質問ある?」
「ない!」
思いつかないっと。
「んじゃ、解散な。精神的に疲れてると思うから、しっかり休めよ。せんせもね」
「シャワーはあるが、今日のところは止めておけよ。お湯で濡らしたタオルで体ぬぐう、くらいにしとけ」
そだね、音も微妙だけど湯気とか。まだ生存者は多いだろうし、ここに大勢集まってくることになりかねないし。
さ、てと。んじゃま、出来ることをしますかね。
19:17。
出来ることを。
少しずつ。
空は赤く色づいている。あれから30分近く寝てたみたいだ。気分もさっきよりはまぁ良くなったし、そろそろ顔見せるか。
「…んで、そっから魅流連れて2人で研究施設から出て1年間くらい一緒に暮らしてた。」
あぁ、まだ話してたんだ。まぁ、一言二言で終わるような薄っぺらい過去じゃないことは確かなんだけど。てか電気くらいつけなよ。外に光が漏れる心配なんてないんだし。
「そ。せんせーが僕を養子に迎えてくれて、2年くらい前までせんせーの家でね。今は一人で暮らしてるけど」
心配いらないよ、せんせ。もう体調は良くなったし。つか結局どこまで話したんだろ?
「……」
絶句、って表情だな分っかりやす。この分だと一通り話したみたいだね。まぁスカウト枠だもんなぁ、剣道以外は普通の家庭で暮らしてきたんならそりゃそういう反応だわ、当然。
「まぁ俺もだけど、先生の人生も相当だよね。だからこそ差し伸べられた手を取ったんだけど」
憐れみなんて必要ない。同情の根本なんて、優越感からのお情けと同意義だ。狗の餌にでもしてろよそんなもん。 
俺だけの為じゃ無かった。自分も一緒に救われたかったから、先生は俺に手を伸ばした。
ギブ&テイク。持ちつ持たれつ。
シンパシーならぬエンパシー。
「魅流が別棟に隔離されていたのは、身体能力や脳を調べる為だけじゃねぇ。こいつが話した、話さざるを得なかった記憶の内容に、あの研究機関が目をつけたからだ。」
「俺の記憶が正しいものであると科学的に証明できれば、つまりそれは異世界や前世、魂といった非科学的なものが存在するのだと証明できる。つまり」
「……利益の、元になるってこと」
「ピンポーン。正解だよ」
研究が成功すれば得た利益は天川にそのまま入り、そうなれば天川に研究成果を認められる。結果、施設拡大さらには自分たちの存在を認められる、と。
その研究対象が俺じゃなけりゃ、思うところなんてなんにも無いし、興味さえも微塵たりとも湧かなかったんだけど。
「こんなにいたいけな子供を実験動物にしてまで名誉と金が欲しい、だなんて。」
醜悪で卑劣で私利私欲に塗れた救いようの無い下種野郎だね。産まれてきた意味も生き続ける価値も存在する理由も無いんだろうから、せめて誰にも迷惑をかけずに理解も認知も認識もされず、少しずつ少しずつ腐り落ちて朽ち滅んで死んでいけばいいのに、って心の中でずっと罵倒してた日々が懐かしいな。
そうでも思わないとやってらんなかったし。もちろん態度にも表情にも出さなかったけど。
「いたいけ…自分で言うのか」
「なぁ〜にぃ、先生。俺の写真いっぱい持ってるくせに?」
「!?おいなんで知って…あ」
「え、ほんとに持ってんの。マジか毎日会ってんのに」
俺のこと好きすぎかよせんせーやべぇな。
まぁ悪い気はしないけど!
「…なんで、そんな前向きになれるんだ」
「あ?」
「理不尽だって思わないのか?天川を、人を…捨てた親、を、恨まない…のかよ。なんでそんな、笑い事みたいに」
…いや笑い事では無いんだけど。
あんな目にあっても笑って済ませられる奴がいたらそりゃ単に頭沸いてるだけだ。正気じゃありえねぇ。
「理不尽ねぇ。災害、犯罪、性別や人種による差別、立場、地位、血筋、人ひとヒト。理不尽なんて今更だろ。現にこの状況だって理不尽だ。で?それって、怒って嘆いて悲しんで恨んで叫んで泣けば、何か変わるか?」
変わんねぇよ変わらなかった。
「そんな行為に意味なんてねぇだろ。なら現状を改善する為にどうすべきかを検討すべきだ。考えて考えて考えて考えて、答えを見つけて実行すべきだ。そもそも」
「馬鹿がメソメソしてんなよ。バカは明るくて能天気でポジティブだって相場が決まってんだろうが」
何も考えずに嬉しそうに尻尾振ってろよそれがお前の仕事だペットめ。
「…存在価値のある人間を見つける。親が子供に望んでることだ。せんせーだけで十分だって思ってたけど」
「お前には剣の腕と直上型馬鹿っていう利用価値があるが、それだけだ。」
今はまだ、な。
「お前になれるかよ?俺にとって存在価値のある人間に」
「っっ!な、ってやるっ。オレが!誰よりも先にだぜ!」
「いやもう既にせんせーいるけど」
「あ」
話聞いてんのかこいつ馬鹿か?馬鹿か。バカ犬だわ。
「くっくっ…。さぁ、そろそろ飯にするか。つってもカレーだが」
「ご飯の後は広範囲の情報収集。それと今後の方針を話し合うから」
話し合うって言うか、伝えるだけだけと。こいつの反応如何によっては少し時間がかかるが、まぁ大丈夫だろ。多分。
18:52。
レトルトカレーなんて久しぶりに食べたな。せんせーも俺も自炊してるし手料理以外はほとんど食べないから、ちょっと新鮮だった。せんせー料理めっちゃ上手いんだよね、俺もそこそこだけど。
「さて、食べ終わったことだし。とりあえず今後の方針伝えるから。ちゃんと聞けよ、桐生」
「なんで念押したんだよ!?」
聞かねぇからだよ。
「とりあえず、ある程度騒ぎが収まるまでここで待機な。で、その後は生存者を探す、が但し」
さぁ、て。どんな反応が返ってくることやら。
「最大4人までだ。それ以外は知らん。」
「…どうやってその4人を選ぶんだ?」
…お?意外とすんなり受け入れたな。
「意外だな、桐生。てっきりもっと反発するかと思ってたんだが」
だよな、俺もそう思ってた。こいつクラスの中心っぽい感じだし、友達いっぱいいるんじゃねぇの?スカウトなんだから剣道部にも入ってるんだろうし。
「いや、こんな状況なんだし。人数が増えればそれだけ食料の消費も激しくなるから、仕方がない事なんだろうなって。それに、リーダーの指示には従うさ」
「…リーダー?」
そういえばトップ決めてなかったな。まぁせんせーか俺のどっちかだけど。
「最初2人に会った時は、魅流は天川先生に助けられたんだろうなって思ったけど。でも、魅流がリーダーなんだろ?グループを作るんなら」
「…先生どうする?俺も先生も上に立つ事は出来るよね。」
「トップなんてがらじゃねぇよ」
それは俺もなんだけど。
「俺がトップだと、人間が相手の場合見た目でなめられるだろ」
少なくとも初見は。
「んなもんどーとでもなる。俺が後ろについてりゃ、問題ねぇな。それに、相手の油断誘って交渉で優位に立つことだってお前にゃ簡単だろ」
簡単かどうかは定かではないけど、できないこともないな。そう考えると俺がやった方が逆に相手を操りやすいか?
「おっけー分かった。俺がやるわ」
よし次、4人の選別方法だっけ。
「人員の選別はしない。校内の状況を管理室にあるモニターで確認して、最も安全に救助できる場所を選択し救援に向かう。性別も年齢も考慮しない」
まぁ出来ればスカウトされた生徒が望ましいけど、そこまで期待はしない。
「で、だ。騒ぎが収まるまでっつったけど、いつ収まるかが分からない。だから食料が尽きる前に、物資の調達に行かなきゃならない可能性もある。その場合は」
「食堂に調達しに行くのか?」
「いや、食料が備蓄してある倉庫に行く。せんせーが居るから。」
「なんで天川先生が居ると倉庫なんだ?いっぱい食うから?」
お前さっきせんせーよりもカレー食ってたろどの口が言ってんだ馬鹿。
「ちげーよ。天川学園で働いてる財閥関係者には、全員にカードキーが与えられてんだ。それ使えば出入り自由なんだよどこでもな」
そーそー。お、そのブラックカード久しぶりに見たな。
ま、この情報は出回ってないから知らないのは当然だけど。
「最低限調達しなきゃいけない物資は飲食料とせんせーの荷物に、車。余裕があれば武器も」
「車がいるのか?学園から出る必要なくね?」
「この学園に無くて、だが生きるために絶対に必要なもの。思いつくか?」
「…、そんなのあるか?」
「そう、無いんだよ。そしてそれは誰しもが思い至ることだ。この学園は知名度が高いからな。つまり、物資を求めて生存者がここへと集まってくる。すると、どうなる?」
「奪い合い、か…」
「然りだ。だからこそこの学園から出る必要がある。出来るだけ早くな」
ここで家族に会わなくていいのか、という質問をしないのには理由がある。スカウトされる条件の1つが、身よりがないことだからだ。才能はあるが、しかし家族がおらず経済的に厳しい者に対して、天川学園が金銭的負担をする事で教育方針である、''未来ある子供たちの才能を開花・成長させる''を全うしている。
そういった理由からも、救助者はスカウト枠が望ましいんだが。
「え、でも天川先生の車は?」
「せんせー今日に限って二輪だから」
「えぇぇ…」
「仕方ねぇだろうがよ」
「そうだね、仕方ない。風に当たりたい気分だったんだもんね」
「……」
まぁいい過ぎたことだ。うだうだ言っても変わんないし。
「車は学園が所有してる大型車を拝借するとして」
いや本当にこの学園は色々揃い過ぎてるっていうか。生徒送迎用の車が50台以上あるなんて、普通じゃ考えられない。
「せんせ。あの車って確か、そのカードキーで動いたよね?わざわざ鍵探さなくても大丈夫でしょ?」
「ん、あぁ。そういやそうだったな。運転したことねぇけど。大丈夫だろ」
「まじかよ!すっげぇな天川学園!?さすがだわぁ」
いすげぇってか無駄だろ実際。絶対いらないわそんなシステム。いや、この状況ではありがたいけど。
字の通り本当に有難いぜそのシステムに感謝する事なんて。
因みにせんせーの運転技術については何の心配もしていない。二輪だろうが普通だろうが大型だろうが余裕で運転出来るからまじハイスペック流石だわ。
「車を盗ったら向かう先は」
「俺の家だ」
「なんで?」
「天川だから」
「…あぁ」
べんり。天川べんり。一言で説明できちゃう。
これぞ天川クオリティ。
「とりあえずはそんなものかな。質問ある?」
「ない!」
思いつかないっと。
「んじゃ、解散な。精神的に疲れてると思うから、しっかり休めよ。せんせもね」
「シャワーはあるが、今日のところは止めておけよ。お湯で濡らしたタオルで体ぬぐう、くらいにしとけ」
そだね、音も微妙だけど湯気とか。まだ生存者は多いだろうし、ここに大勢集まってくることになりかねないし。
さ、てと。んじゃま、出来ることをしますかね。
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