世界は何も変わらない。変わったものはルールだけ。

クラウン

見つける。警語。

「っふぅ。まぁとりあえずは、こんなもんかな?」

現在時刻は15:49。
へぇ〜あれから40分ちか…く……?
40分!?え、いつの間にこんなに時間たってんの。ぜんっぜん気づかなかった。
せんせー退屈してないかな?

「せんせー?結構な時間待たせてたみたいなんだけど。退屈してなかったかな?大丈夫?」

「…たいくつ、だぁ?お前がウキウキ作業してる間、3体潰したんだ退屈なんてするわけねぇだろ」

「え」

うっそ来てたの?うわぁ、知らなかった、あっぶなぁ。

「集中し過ぎるその癖、なおせ」

「善処するよ」

前からなんだよねぇ、これは。もはや諦めてるけど。先生が居るから気が緩んだかな?しっかりしなきゃね。油断は死に直結するんだから。

「で、終わったのか?」

「そだね、あらかた。少なくとも警備員室に着くまでの繋ぎとしては、充分だと思うけど。ほら」

この教室内に散らばってる武器になりそうなものを集めただけでも、色んなものが見つかった。中には、何でこんなものがあるの?ってやつもあったけど。

ドライバー、スパナ、きり、充電式電動ドリル、ナイフ、のこぎりのみ、バール、ハンマー
なんかの工具セットとその他鋭利な金属類(名前は知らない)。オーディオとか投影機とかの修理器具だとしてものこぎりなんて使わない…。何故ある。

で、工具セットは凶器として有用なんだけど、近づかなきゃ効果は薄い。まぁ投擲とうてきすりゃ話は別なんだけど。

「という事で。作っちゃったよ簡易的な槍!」

これは掃除用具の長い箒を利用した。髭を毟って切っ先を鋭く削るだけ。武器なんて初めて作ったけど、ナイフとかあったし割と簡単だった。

「まぁ先生にはこっちを使ってもらうけどね」

「モップか?」

「アルミ製のね」

ヒモは除去済み。金属だから比較的丈夫だし、ヒモがついてた部分は鉄製で角が鋭利になってる。振って頭部に当てれば余裕で頭蓋は砕ける。先生の力ならなおさらに。
力×スピード=破壊力♪

「上から下に振り下ろしてね、廊下では。」

「こっちのが長ぇし安全だろうが。お前が使え、魅流」

「いやいや、だからこそだよ。長物の武器は体格にあった物を使う方がいい。それ、僕より背高いし。あと重いんだよね、持てないほどじゃ無いんだけど」

因みに他にも理由はあったりする。振り下ろしと突きでは突く方が体力の消費が少ない。だからモップを先生に渡した。13歳だからな!歳相応の体力なんだ。ちなみに筋肉は無い。見せ筋でもいいから欲しい…くそ、せんせーめ。

「あ、先生。そっち掃除機あったでしょ?コード欲しいから、切ってくんない?」

「これか」

それそれ。自分でやったんだけど、切れなかったんだよ。ペンチにしてもコードカッターにしても、硬いっつの。もっとスルッとやれないもんかnブチィッ!!
ん、?

「…、いや結果オーライだけど。切って、ってあれだよ?工具で切ってってつもりだったんだけど。素手で引き千切るとは…」

「あん?…良んだよ別にこっちのが早ぇえだろうが」

「いや良いけど」

良いけど。割とびっくりしたわ。

「まぁそのくらいかな。そろそろ移動しようか。僕のバックはっと」

「工具は入れたコードもな。ほら行くぞ」

「お、ありがとせんせ。さっすが〜」

いやいや、何も言わずに持ってくれるなんて嬉しいねぇ。押し付ける気満々だった罪悪感が無くなったよ〜。元々ほとんど無かったけど。

「荷物を持つのにも一苦労、か」

「失礼じゃないかなちょっと!?」

年相応っつってんじゃん。これからおっきくなるんです〜!あ、でも前も確か…いや、周りが大きかっただけ。キニシナーイ。

「はぁ…。扉、開けるからね。気引き締めてよ」

「あぁ、分かってる」

槍を片手に持ち、扉に手をかける。さぁ、とりあえずのセーフティゾーンに移動だね。遭遇しなけりゃ御の字だけど、集中していこう。

「15:55。移動開始」

廊下に屍者は見当たらない。よし、ひとまず良さそう。
…ん?

「階段登ってきてんな、走って。人間か?」

「みたいだね、なんだあれって声聞こえるし。人数は1人」

っち。5人までは救助対象って決めたしなぁ。仕方ないか、気は進まないけど。

「先生、階段まで出ていってこの部屋まで誘導してくれる?」

「そのつもりだ」

行動早いな、助ける気満々だったの。どんな人間かなんて分かんないのにね。あぁ、だからこそとりあえず助けておこう、って考え方もあるのか。こんな状況なんだし、恩を売っておくのも一興だよね。
ん、来た。

「ほら、入れ。入って落ち着け」

「はぁっ、はぁっ。なんなんだよあれっ!?」

くっそうるせぇな、もうちょっと静かにできないのか?

「あの、早く入った方が良いですよ?外は危険ですから」

他人の警戒心を解くためには、低姿勢で対応すると良い。平時なら笑顔も大切だけれど、この状況で笑顔なんて作ったら狂ってる様にしか見えないからな。あたかも相手を心配している風を装う。上目遣いで少し怯えた表情をするのがポイントだ!大体の相手は庇護欲ひごよくをそそられて落ちる。まぁ俺の場合は必然的に上目遣いになるんだけど。

おやおや、苦い顔をしてるねぇせんせ?何か嫌な思い出でもあるのかなぁ、この態度に?

ま、それはさておき。

「な、なんで子供が!?」

「いいから入れって」

そーそー、早く入れ。あとうるせぇからマジで静かにしろよ。

「先生、鍵を閉めてください。お兄さんはこちらに。地べたですみませんが、ひとまず座って休んでください」

あ〜ぁあ、セーフティゾーンにはまだ行けなそう。まぁ、こいつが逃げてきた経路に屍者が居なかったかの確認が出来次第、移動するけど。遅くても30分かからないでしょ。

「なんだよ、なんなんだよあいつらっ。人を、く、喰っ」

「しぃ〜」

顔をずいっと近づけ、人差し指を口に添える。出来るだけゆっくりと、耳に残るように囁く。

「落ち着いてください。音につられて、彼ら・・がやってくるかもしれません。お願いです、静かに。深呼吸をして、息を整えてください」

…よし、静かになった。せんせーも座った事だし、まずはこいつの話を聞こうか。話を聞いた上で、持っている情報をどの程度提供するかは考えよう。

目配せする。会話の主導権は先生が握った方がいい。年下に教えてもらう、なんて思春期の男子には癇に障るだろうしね。

お、伝わったみたい。以心伝心ってやつだね。何処まで伝わったかはさておき、まぁ先生なら分かってくれてるでしょ。伊達に長いこと一緒にいないし。

「落ち着いたか?」

「…あ、あぁ。あんたらは、」

「俺は天川 剛。ここの保険医だ。んで、こっちは」

んー、どうしようかな。校章からして2年生だから、俺のことなんてほとんど知らないだろうし。別にいいか、知ってもこの状況に比べたら些細な事でしょ。

「水上 魅流、です。」

会釈しとこ。
さて、どのくらい情報を持ってきてくれたのかな。まぁあんまり期待してないんだけど。逃げてる途中に屍者が居たかどうかが分かればいい。

「オレは、桐生きりゅう やいば。2-1」

桐生ね。人の名前覚えるの苦手なんだけど、まぁわりかし分かりやすいし。大丈夫でしょ。

「桐生。生徒は北体育館に移動していたはずだが、皆と一緒に移動しなかったのか?」

「…っ移動、してたんだ。けど、なんかおかしな警備員がいて、そいつがいきなり先生に噛み付いて、その後石田にも!おれっ、それで、ワケわかんなくなって、必死にっ」

クラスメイトと一緒に移動中、屍者と化した警備員に襲われた。そしてパニックになって、無我夢中でここまで逃げてきた、と。
…ふーん、なるほどね。

警備員が屍者になってるって事は、校内警備と事態の対処の為に、既に行動してるって事だ。つまり警備員室は無人かいても1人くらいかな。好都合だ。

…なんだろ、パンデミックの被害者としてはこれが普通の反応なんだろうけど。何だか新鮮な気持ちだ。せんせーが動揺しなさ過ぎなんだよ。人のこと言えないんだけど。

「…そうか、辛かったな」

「あ、あの…。ここに来るまでに、あの…。アレ、いましたか?」

いや応えにはあまり期待してないんだけど。
パニックになってて周りなんて見てなかった、って応えが返ってくるに1票。

「…いや、あれには1人も遭ってない。つか先生、と水上はなに持ってんだ、それ。それとここ、なんか臭くねぇ?」

…、?
まぁ、視野が狭くなってるのは仕方ないか。廊下にいっぱい死体があったのも気づいてないっぽいし、この部屋の中にも1体居るんだけど。

1人、あれには遭ってない、か。視界に入ったかどうかを知りたかったんだけど。それと、屍者をまだ人として認識してるのか?早々に改めさせた方が良い。

「持ってんのは、あー、アイツらに対抗するための武器だな。簡易的な。匂いの原因は廊下のヤツらだろう。ここで襲われたからな、全部俺が始末した・・・・・・・・

「は、?始末、え、ちょっと待てよ。殺したってのか?人間を!?うっそだろ!?」

いちいち声がでかいな。音で引き寄せるかもっつっただろうが。めんどくせぇ。

ていうかやっぱり人間だと思ってんだね。まぁそりゃそうか。死体が動くなんて非現実的な事、科学的にありえないって考えなんだろうねぇ。
せんせーはそれを見越して、ヘイトが自分だけに集まるように俺が殺した、って言ったんだろう。

さて、先生。早めに納得させて移動しないと、この五月蝿さに屍者が群がってくる可能性があるんだけど。

「ありゃぁ、死体だ。死体が動いて人を襲ってんだよ。人間じゃねえ。人間だったもの、だ」

「し、たい、だと?あれは、死んでるのか?ほんとに?」

…。

「…あぁ、なんで動いてんのかは知らねぇがな」

「そ、そうか。こんな、映画みたいな事があるんだな。バイオハザードみたいな」

「先生、先程仰っていた警備員室の件。お話した方がいいのではないでしょうか。」

「警備員室?」

「あぁ、そうだな。今からここを移動して、警備員室へ向かおうと思ってる。あそこは比較的ここから近いし、ここよりも安全だからな。」

「移動、すんのか。危ねぇんじゃねぇの?アイツらがまた居たら…」

「そのための武器だ。魅流、何本か槍あったろ。渡してやれ」

「そうですね。どうぞ。箒を削って尖らせただけの簡易的なものですが、無いよりは全然マシかと」

移動する際の危険はあるが、対応するための武器はあるし、何より先生が居る。1人でいる心細さがない分、

「あぁ、サンキュ。分かった、警備員室だったな。早速行こうぜ」

乗ってくる。
切り替えの速さは大事だけれど、お前が仕切ってんじゃねぇよ泣き虫。

さて、やっとか。
16:13。移動、再開始。

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